蜜恋ア・ラ・モード
「こんなにたくさんの野菜を運んでくるの大変でしたよね? もし時間があるなら、お茶していきませんか?」
このまま玄関先でいるよりも、何か飲みながら美味しいものでも食べていたほうが間が持つというものだ。
「はい、そうさせてもらいます。実は都子先生に、お話したいこともあったので」
「そうですか。お料理のこと? なんでも質問に答えちゃいますよ」
「い、いえ、料理のことじゃなくて……」
そこまで言うと有沢さんは「僕が運びます」と、私が持とうとしている木箱に手を伸ばしてきた。そのとき指先が触れた。
ほんの少し触れただけなのに、キュンと胸が疼く。
やっぱり無理。私は有沢さんのことがどうしようもなく好きで、この気持ちを隠したまま講師として料理を教えることなんてできない。
有沢さんに彼女がいることは百も承知。でも気持ちを伝えることくらいしてもいいよね?
木箱から手を離し、有沢さんに視線を移す。
すると有沢さんも何かを感じたのか、木箱を元のあった場所に戻すと私に向き直った。
「有沢さん……」
「都子先生……」
何故か同時にお互いの名前を呼び合い、思わずふたりで笑ってしまう。
確か、有沢さんも何か話があると言っていた。ならその話を先に聞いたほうがいいかもしれない。
やっぱり落ち着いて話せるリビングに場所を移そうと、有沢さんの腕に手を掛ける。
「有沢さん。ここじゃなんですから、リビングに……」
と絶妙なタイミングで、玄関のドアが開いた。
「おい都子!! また鍵が開いてるじゃない……か……」
その声に振り向けば、驚きから目をまん丸にした洸太が呆然と立っていて。
万事休す───
そんな言葉が、どこからか聞こえてきたような気がした。