蜜恋ア・ラ・モード
洸太はいつもそう。
いい時も悪い時も、なんとも言えないタイミングで私の前に現れる。
特にこの頃は、どうしてかそれに有沢さんが絡んでることが多い。どこかで見ているのか?って疑ってしまうくらいだ。
でも今目の前にいる洸太の顔を見れば、その驚き用は尋常じゃなくて。偶然だということを語っているのだけれど……。
「こ、洸太、おはよう。今日も配達ご苦労様」
なんと言葉を掛けていいのかわからなくて作り笑顔を作ると、当たり障りない言葉を掛けた。
その言葉にふと真顔に戻した洸太が、私の顔をちろっと見る。
「おはようじゃないだろう。何してんだよ、こんな朝っぱらからふたりで」
「別に何もしてないわよ。有沢さんが、ご実家で採れた野菜を届けてくれただけで……」
そう言いながら、有沢さんの腕を掴んでいた手をそろっと離す。本当に何をしていたわけでもないのに、腕を掴んでいた行為に説得力がない。
助けを求めるように有沢さんを見て「ね?」と目で合図を送ってみたのだけれど、有沢さんはニヤリと口角を上げて魅惑の微笑みを見せると私の肩を抱いた。
「洸太さん、おはようございます。独身の男が下心もなしに、こんな時間に女性のひとり暮らしの家に来ると思いますか? この野菜はただの口実ですよ」
何言っちゃってるの? 有沢さん!?
そんな洸太に喧嘩を売るようなこと言って、またこの前の二の舞いじゃない!!
どうするつもりなの?
それに有沢さんあなたには、料理を作ってあげたいくらい大切な女性がいるんでしょ?
なのにそんな心にもないことを言って、私の気持ちを弄ばないで欲しい。
今度は恨めしい目で有沢さんのことを上目づかいで見れば、切れ長の目が優しく弧を描いた。
ダ、ダメだ。私は有沢さんのこの目に弱い。
有沢さんの行動に少し反抗気味だった心は、すでに消えてしまっていて。
こんな状況なのに、また“好き”の二文字が頭のなかに飛び出してきてしまった。