蜜恋ア・ラ・モード
「いい加減にしてっ!! 彼女がいるのにこんなことするなんて、有沢さん酷すぎます。どういうつもりなんですかっ? 彼女に悪いって思わないの!! 信じられないっ!!」
一度堰を切ったように出てしまった言葉は止まることを知らなくて。知らず知らずに声を荒げると動揺している気持ちと重なって、次から次へと有沢さんを責め立てた。
「都子先生、落ち着いて。僕の話を聞いて下さい」
「これが落ち着いていられるはずないでしょ? 有沢さんの話なんて聞きたくないです!!」
私を落ち着かせようと、有沢さんが私の肩を掴む。でもそれは、私の気持ちを逆なでするだけ。
離してと言わんばかりに有沢さんの手を振り払おうと身体を大きく揺すったのだけれど、私の力じゃ有沢さんを引き離すことなんて出来なくて。
有沢さんのことを睨むように見ている両目から、大粒の涙が溢れだす。
泣きたくなんかないのに───
そう思えば思うほど涙は止まらなくなってしまって、足に力が入らなくなるとその場にしゃがみこんだ。
涙目のまま有沢さんを見上げ視線が絡まると、ゆっくりと彼の腕が伸びてきて私の頬に触れた。
すぐに何かを話すこともせず、静寂の時が訪れる。それは一瞬のような、何分も続いたような。
そんなお互いの心臓の鼓動まで聞こえてしまいそうな沈黙を破ったのは、有沢さんだった。
「都子さん。お願いだから僕の話を聞いて」
今まで“先生”だったのに“さん”と呼ばれ、それは私の涙を止めるのに十分なもので。
驚きに泣き腫らした目をまん丸にして有沢さんを見つめれば、彼はクスッと笑ってから頬に当てている手をそっと離す。
そして有沢さんも私の前にしゃがむと、はぁ~と大きく息を吐き少し困ったような顔を見せた。