蜜恋ア・ラ・モード
「都子さんが僕のことをどんなふうに思っていたのかはわからないけれど、僕だって普通の男なんです。好きな人を目の前にしたら、抱きしめたいと思うしキスだってしたい。しかもその相手が、自分と同じ気持ちでいてくれたと知ったら尚更でしょ」
けどそれは、彼女がいない場合であって……と言いたくても、唇にはまだ有沢さんの人差し指が当てられたまま。もどかしさから首を横に横に振って見せても、まったく効果はなくて。
「何か言いたそうだね。でも喋らせてあげない」
有沢さんは意地悪に微笑み唇に当てていた指を離すと、チュッと音を立ててもう一度キスをした。
それは触れるだけのやさしいキス。
なのに一度目のキスの時には感じなかった、彼の私に対する気持ちが全身に伝わってしまい言葉を失う。
もう唇も指も触れていないのに……。
目の前にいるのは、本当に有沢さんなの?
今日の有沢さんはいつもの有沢さんとは別人みたいで、戸惑うばかりだ。
「都子さん、もう一度言います。僕はあなたのことが好きです。誰にも渡したくない」
その言葉を言い終える前に、私の身体をギュッと抱きしめた。
まだ彼の言葉を信じているわけじゃないのに、抱きしめる腕から逃れられない。
それどころか私の意志に反して、身体が勝手に有沢さんの背中に腕を回してしまい、彼のことを抱きしめ返してしまう。
「さっきまでは僕のことを“彼女がいるのに最低”と怒っていたのに、どういう風の吹き回し?」
「それは……」
「安心して。僕には彼女はいない」
「えっ?」
でも料理教室初日、確かに有沢さんは言っていた。
『彼女に、作ってあげたいと思いまして』
あの言葉は何だったの? 頑張るって、握りこぶし作ってたじゃない。
彼の腕の中で、小首を傾げる。
でもしばらく考えて、ふと思い出した。あの時の有沢さんの笑顔が、不自然だったことを。