蜜恋ア・ラ・モード
ゆっくり私の身体を抱き起こし、自分もソファーに座り直す。
そこにはさっきまでの穏やかに優しく微笑む、有沢さんはいなくて。私の顔を少し悲しそうに見つめる視線に『ちゃんと話をしましょう』なんて言ったことを、少しだけ後悔してしまった。
有沢さんのことを“最低”なんて言ったけれど、あれはあの時の流れで出てしまった言葉で本心ではない。
この一ヶ月彼のことを見てきて、誰にでも簡単に好きと言ってしまうような人じゃないこともわかっているつもり。
彼のことを信じる─── そう心で決めたものの、不安な気持ちは消えてくれなくて。
今から何を聞かされるのか?
そのことを考えると胸が苦しくなってきて、目を伏せると俯いてしまった。
「都子さん、顔を上げて。ちゃんと顔を見せて」
有沢さんの優しい声が耳に届いても素直になれない私は、首を横に振ることしかできなくて、目にじゅわっと涙が溜まってきてしまった。
私、こんな泣き虫じゃないのに……。
グッと歯を食いしばり涙が溢れるのを堪えていると、少し骨ばった有沢さんの指が頬を包む。
「今日野菜を持ってきたのは口実って言ったの、都子さん覚えてる?」
有沢さんが頬をスーッと撫でると、驚きから顔を上げてしまう。と同時に、目に溜まっていた涙がポロポロと溢れだ頬を伝い、私の頬に当てている有沢さんの手も濡らしてしまった。
その光景に有沢さんは一瞬目を見開いたけれど、すぐにいつもの笑顔に戻すと涙を人差し指で拭う。
「洸太くんに喧嘩を売るようなことをいってしまったけれど、あの言葉はまんざら嘘でもないんだ」
有沢さんは何が言いたいのだろう?
首を傾げて彼の顔を見つめると、頬に当てている手をおもむろに離した。