蜜恋ア・ラ・モード
「あの日、僕が誕生日じゃなかったら。あの時、彼女に手をふらなければ……。そんな、考えてももうどうにもならないことばかりを毎日考えていた」
「でもそれは有沢さんのせいじゃ……」
「わかってる。わかってるけど、そうでも思わないとやりきれなくて。あの日から、僕の時間(とき)は止まったしまったんだ」
事故のことを思い出してしまったんだろう。有沢さんは静かに目を閉じると、苦痛の表情を漏らした。
その時の有沢さんの気持ちを、私には推し量ることはできない。
なんて声をかけたらいいのか……。
どんな慰めの言葉も今言うには嘘っぽく感じてしまって、適当な言葉が見つからない。
「もう恋をすることは一生ない。僕にはそんな資格はないと、働くだけの毎日を過ごしていたある日。ふらっと入った喫茶店でこの地域の生活情報誌を目にしたんだ」
そう言うと有沢さんはいつも持っている鞄の中から、A4サイズの冊子を取り出した。
「あっ……」
「気づいた? そうこれは、都子さんの料理教室の募集が掲載された生活情報誌」
それはスマイル料理教室を開く五ヶ月前。どこで宣伝しようかと悩んでいた時に、実家でふと目にした一冊の情報誌。地域密着型でほとんどの世帯に、無料で配布されていた。しかも掲載料が安い。
これだっ!! とすぐに連絡して、翌月から掲載されたのだけれど。
「何で料理教室だったんですか?」
そんな疑問が、口をついて出てしまった。