蜜恋ア・ラ・モード
「都子さん、好きです。愛してます」
耳元でそっと囁かれた言葉は、ずっと欲しかった言葉で。泣きだしてしまいそうになるくらい嬉しい言葉なのに、素直に喜べない自分がいた。
有沢さんの一年半前の出来事を聞いってしまった今、有沢さんの心の中にはまだ真佳さんの存在があることは間違いない。そしてそれは、一生消えることはないだろう。
言葉は悪いかもしれないけれど、“亡くなった人には敵わない───”
そんな言葉を聞いたことがある。
真佳さんとの思い出は綺麗なまま。有沢さんの中で永遠に変わらない姿のままの真佳さんに、私は勝てるのだろうか。
有沢さんの言葉を信じてないわけじゃない。きっと本当の気持ちだと思う。
抱きしめられている腕からは有沢さんの気持ちが嫌というほど伝わってくるし、この温もりは確かに今私のものだ。
なのに、彼の背中に腕を回し抱きしめ返すことが出来ないなんて……。
「都子さん?」
腕の中にいる私がピクリとも動かないのを不思議に思ったのか、有沢さんが身体を少し離し顔合を覗きこむ。
どう答えていいかわからない私は有沢さんと目を合わすことが出来なくて、とっさに視線を逸らしてしまう。
「話を聞いて、僕のことが嫌いになった?」
悲しげに聞いてくる有沢さんに、『そんなことないっ』と伝わるように大きく首を横に振る。
「じゃあどうして俯くの? 僕に顔を見せるのが嫌?」
やっぱり答えることができなくて、もう一度首を横に振った。
私だって有沢さんの顔が見たい。素直になって、ギュッと抱きしめたい。
でも頑なな私の心はそれをさせてくれなくて、一度逸らしてしまった視線を戻すことができないでいた。