蜜恋ア・ラ・モード
「自信が……」
「ん? 何?」
私の小さな声を聞き逃さないようにするためか、有沢さんは顔を肩口に寄せると甘く囁く。
耳に吐息を感じ思わず首をすくめ身体を離そうとしても、思っていたより逞しい腕が強く抱きしめてそれを許してくれない。
「都子さんが思っていること、全部話して欲しい」
有沢さんが切なげにそう呟けば、黙っているのはただ無駄に時間を費やしているだけだと気づいて、重い口を開いた。
「有沢さんのことは好き。大好きだけど、あなたの心の中にいる真佳さんに勝てる自信がないです」
これが今の私の、紛れも無い本当の気持ち。
こんな自分のまま、有沢さんの気持ちに応えることはできない。
「恋愛に、勝ち負けは関係ある?」
「わかりません」
「うん。都子さんが言おうとしてることはわからなくもないけど、真佳に勝とうとしなくてもいいんじゃないかな」
「でも……」
「今、僕が好きなのは都子さんで。この先の未来を一緒に歩んでいきたいのも都子さんだけなんだ」
不意に頬に当たられてた手。親指が動き顎を少し強引に上げられると、こつんとおでこがぶつかる。
鼻先が軽く触れると、有沢さんから柑橘系の甘すぎず爽やかな香りが漂ってきた。
私は、この匂いが好き。つい甘えてしまいたくなってしまう。
「これだけ僕が気持ちを伝えても、まだ自信がないとかいうつもり?」
ふっと微笑むと、少し甘えるように鼻先をこする。
私の心を和らげるよう冗談めかして言ってくれる彼の優しさに、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。
至近距離に、大好きな有沢さんの顔。目線を少し下げれば、形の良い唇がそこにあって。
私は無意識に、彼の唇に自分の唇を重ねていた。