蜜恋ア・ラ・モード
薫さんもそう。包丁の持ち方すらままならなかったのに、今では豆腐を手のひらの上で上手に切っている。
真面目な顔つきで真剣に料理している姿は、ちょっと笑ってしまうけど。
そんな薫さんを見るのが、私の楽しみだったりして。
……って、薫さんに見惚れててどうするの!!
慌てて薫さんから視線を逸すと、高浜さんの目とバッチリ合ってしまう。
「都子先生、なんだか楽しそう。いいことでもありましたか?」
「え? あ、あぁ、みなさん上達したなぁと思って」
「それだけ?」
「そ、そ、それだけ……です」
高浜さんのツッコミに動揺は隠せなくて、言葉の最後が尻窄みに小さくなってしまう。
私、顔赤くない?
火照る顔を隠し気味に高浜さんをチラッと見れば意味深にニヤニヤと笑っていて、居たたまれなくなった私は足早に自分の場所へと戻った。
高浜さんのあの言動。あれはきっと、何かを感じているに違いない。
料理教室初日の時も、帰り際に『先生。がんばって下さいね』と言われ、何を? と問えば『自分で考えて下さい』なんてニッコリ笑われた。
もうあの時から、私が薫さんに心惹かれていることを悟っていたとか?
だとしたら、高浜さんは意外と侮れない相手かもしれない。
もしかして梅本さんたちも……と思って見てみたのだけど、フライパンに油を熱し次の準備に余念がない。
どうやらこちらは大丈夫そう。
ホッと胸を撫で下ろすと、レシピに目を下ろす。
「みなさん、豆腐の下準備はできましたか? じゃあここからが本番です。フライパンに油を熱したら、レシピに書いてあるとおりの順で調味料、唐辛子の輪切り、豚ひき肉を炒めていって下さい」
何事もなかったかのようにそう告げると、もう一度薫さんのことを見た。彼の真剣な横顔に、胸がギュッと熱くなる。
そしてその時私の中に、『自分ももっとレベルアップしないといけない』と決意にも似た気持ちが膨れ上がっていった。