蜜恋ア・ラ・モード


部屋中に、中華調味料の匂いが立ち込める。特にニンニクの芳ばしい香りは、私の空腹中枢を刺激した。

これは白いご飯は欲しくなる香りだよね。やっぱりご飯を炊いておいて正解だった。

炊飯器から立ち込める湯気を確認しながらうんと頷くと、全員の進み具合を見て回る。


「梅本さん。お肉に火が通ったら豆腐を入れて炒めあわせて。豆腐が崩れないように軽くね」


一人ひとりに声を掛けポイントになる部分を教えながら歩いていると、薫さんの横で足を止めた。


「あっそうそう。今日は薫さんのご実家で採れたレタスを頂いたので、それを使って中華スープを作りますね」


そう何の気なしに言って、高浜さんが顔を上げニヤリと微笑んだのを見て自分の失言に気づく。

私今、“薫さん”って言ったよね。

今までは“有沢さん”と呼んでいたのにいきなり薫さんに変わっていれば、感の良さそうな高浜さんなら気づくのは当然で。

あぁ~、やってしまった。

この状況を、どう回避する?

薫さんを見れば、やはり気づいたのか肩を震わせて笑いを堪えていて、回避なんて無理そう。

でもまあ今更どうすることもできないし、言ってしまったものはしょうがない。ここは、梅本さんと柳川さんが気づいてないみたいなのが救いということにしよう。

なんて、勝手な理屈でその場を切り抜けようとしたのだけれど。


「都子先生。すみません」


高浜さんに呼ばれてしまい、嫌な予感を胸に抱きつつ彼女の元へ向かった。











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