蜜恋ア・ラ・モード
「はい。では次にチキンスープと残りの調味料を加えて下さい。煮立ったらネギを加えて、水溶き片栗粉でとろみを付けます。さぁ、もう最後の仕上げですよ」
パンパンと手を叩き気合を入れるとみんなの顔が引き締まり、手の動きが良くなる。
「水溶き片栗粉は、少しずつ加えていって下さい。軽くとろみが付けばOKです」
最後にラー油を回しかけ花山椒を振りかけると、その香りがキッチンに広がり麻婆豆腐の出来上がり。
「ご家庭で作る時は、ラー油や花山椒の量で辛さを調節して下さいね」
全員が出来上がったのを確認すると、器を各々に選んでもらい盛り付けを開始する。
同じ料理を作っても、器が違うだけで見た目も少し違ってくる。それぞれの個性が、料理にも現れるというわけだ。
ひとりひとりを味のチェックをしながら、注意点を指導して回る。
女性三人をチェックし終わると、薫さんの元に向かった。
麻婆豆腐に視線を移動させると、器に目が止まる。
「あ……」
それは淡い青色を基調とした器で、私の一番のお気に入り。
でもそのことを、薫さんには話したことがない。と言うことは……。
私と薫さんの好みは似ている?
それはなんてことのない、ちょっとした偶然。でもたったそれだけのことが嬉しくなってしまう。
「都子さん?」
突然名前を呼ばれ、耳に届く吐息にくすぐったさから首をすぼませる。
私をからかっているのか、反応を楽しんでいるのか。
三十を超えた薫さんからは、想像もできないような子供っぽい意地悪な目を見せ、私の気持ちを弄ぶ。
大人なんだか、子供なんだか……。
呆れたようなため息を漏らすのとは裏腹に、そんな薫さんに喜びをも感じてしまう自分がいた。