蜜恋ア・ラ・モード

作業を全員で分担して二品を作り終えると、慣れた手つきで後片付けを済ませる。そして試食の準備を始めようと戸棚に手を掛け茶碗を取り出すと、何を思ったのか高浜さんがとんでもないことを口にした。


「都子先生、今日は有沢さんと何か話があったんですよね? 私たちがいたらご迷惑ですし、今日は帰りまーす」


梅本さんと柳川さんは、何がなんだかわからないまま帰り支度をさせられて困り顔。

高浜さんは三人分の試食をタッパーに詰めると袋に入れ自分も帰り支度を整えると、薫さんに何かを耳打ちしてふたりを連れて帰ってしまった。

高浜さんは、一体何をしたかったのだろうか。

高浜さんの突然の行動についていけず、ポカンとして彼女たちが消えていった廊下を眺めていると、薫さんがふっとと笑みをこぼし私の前に立ちふさがった。


「高浜さん、いい人ですね」

「いい人?」


それはよくわかっているけど、今どうしてその言葉が出るのかわからない。

いつもの高浜さんなら試食を楽しみにしていていの一番に準備を始めるというのに、なんで今日に限って帰ってしまうの?

それにその理由が、私と薫さんに何か話があるなんて。

私はそんなこと、ひとことも言っていないのに……。


「薫さん、私に何か話があるんですか?」

「うん、あるというか無いというか……」


そう言う薫さんの私を見つめる目が、何となく妖しいのは気のせい?

危険を察知した私の脳が足を一歩後ろに下げると、それに合わせて薫さんが一歩近づく。

それを2~3度繰り返すと、背中がキャビネットにぶつかった。

< 79 / 166 >

この作品をシェア

pagetop