蜜恋ア・ラ・モード
「もうそれ以上は下がれないね、都子さん」
「そ、そうみたいです。って、何で私はここに追いやられているんでしょうか?」
「逃げる都子さんが悪い」
悪いって、私は何もしてないのに。それにそんな追い詰めるような目で見つめられれば、誰だって逃げたくなると言うか何というか。
視線を合わせたまま顔を近づけてくる薫さんに、恥ずかしくなって顔を背けたけれど。
薫さんの手に顎を取られ元の位置の戻されてしまうと、さっきまでとは違う慈しむような目で私を見つめている薫さんに心を奪われてしまった。
やっぱり薫さんはズルい。
私の気持ちを知ってからというもの、私の心を弄んでばかり。
誰かひとりのことをこんなにも好きになったことのない私には、気持ちの拠り所に余裕がなくて。
薫さんに好きという気持ちを、どう伝えたらいいのかわからないというのに。
「なんで泣いているの?」
「え?」
薫さんにそう言われるまで、自分が泣いているなんて全く気づいてなかった。
小さい頃から滅多なことで泣かない私が、薫さんを目の前にして涙するなんて。
自分も知らない間に、こんなにも薫さんのことを好きになっていたなんて。
ゆっくりと近づいてくる薫さんの顔から、もう逃れることは無理みたい。
頬に唇の柔らかさを感じると、もういろんなことがどうでも良くなってしまった。
「都子さんの涙は甘いね」
私の涙を掬うように唇を当てる仕草はそれだけでもくすぐったくて恥ずかしいものなのに、唇を這わせて首筋に辿り着くとそこを強く吸い上げた。