蜜恋ア・ラ・モード
「この唇は嘘をつかない。わかっているハズなのに、つい都子さんを反応を確かめたくなってしまう」
薫さんはそう言うとゆっくり唇をなぞり、名残惜しそうに指を離した。
それは余裕ある大人な人だと思っていた薫さんの初めて見せる感情で、そんな弱いところも見せてくれたことに嬉しさが込み上げる。
これはいわゆる “ヤキモチ” という奴なのだろうか?
薫さんでも、ヤキモチ妬くんだ……
込み上げてきた嬉しさを我慢しきれずに、グフッと笑みを漏れさせる。
「今のこの状況に似つかわしくない笑い方だけど、都子さん何考えてる?」
薫さんの妖しく光る目に顔を元に戻そうとしたけれど、一度笑い出してしまったら簡単には止められない。
「ご、ごめんなさい。薫さんの気持ちが嬉しくてつい。さ、ご飯食べましょう」
誤魔化すように話をそらし薫さんに箸を渡そうとして、その手首をパシッと掴まれる。
驚く私をよそに手首を掴む手に力を込めると、身体をぐっと寄せてきた。
「しょうがない都さんだね。笑っていた理由、後でゆっくり聞かせてもらうから覚えておいて」
薫さんの目は強い思いを語っていて、再度妖しく光る目に今度は身体がゾクリと震える。
慌てて掴まれている手を引っ込めると、薫さんを軽く睨みつけた。
「薫さん。そんなことばかり言ってると、ご飯食べさせてあげませんからね」
「こんな美味しそうな料理を目の前にしてお預けなんて、それはちょっと困るな」
なんて言ってるのに、箸をきちんと持ち直すと「いただきます」と言って茶碗を持つ薫さん。
今日は朝からいろんな顔の薫さんが見れたけれど、どれもみんな薫さんで。
これからまた、どんな薫さんをそばで見ていけるのか。
大きな期待と少しだけの不安が、私の頭の中を過っていった。