蜜恋ア・ラ・モード


時刻は五時半を少し回ったところ。

少し早めの食事を終えると、ふたりで洗い物を始めた。

お腹が満たされたからか、それとも食事中に気持ちが落ち着いたからか。今ふたりの間には、穏やかな時間が流れている。

私の隣には薫さんがいて。

顔を見合わせてはお互い照れくさそうに笑って見せたり、時々肘が触れ合う微妙な距離が何となくくすぐったくて。

こんな時間を過ごすことができるようになったことが、他の何よりも幸せで……。

でも今朝までは全く予想もしていなかった展開に、少し戸惑う自分もいた。


「薫さんにまで洗わせてしまって、ごめんなさい」

「なんで謝るの? 僕も食べたんだから、当然のことでしょ?」


さぞ当たり前のようにサラッと言ってしまうから、ちょっと驚いた。

父親がそんなことを絶対しない人だったから。

優しい人ではあるけれど、“男子厨房に入らず” とふた昔前のような考え方の持ち主で、台所に立つ姿を一度も見たことがなかった。

だからか、特に洗い物なんて女がすることだと思っていたのだけど。

薫さんが料理教室に通っていることでもわかるように、今の時代、男性が台所に立つことは珍しいことではない。

共働き夫婦が多い今の時代、男性も普段から台所に立つのが当たり前になってきているような気がする。

仕事が休みの日には、夫婦でキッチンに立って一緒に料理をする───

そんな話を、何かの雑誌で特集を組んでいたこともあったっけ。

薫さんとふたりでキッチンに立って料理をする……

そんなことを勝手に想像してしまい、顔をニンマリさせてしまった。









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