蜜恋ア・ラ・モード
「うん、美味しい」
薫さんは満足そうに微笑むと、薄く息を吐いた。
いつもなら晩御飯の後にひとりで飲むコーヒー。それはそれで美味しいのだけど、薫さんと一緒に飲むコーヒーは、格別に美味しくて。
コーヒーと一緒に薫さんの笑顔が、私の心に染みていった。
「喜んでもらえて良かったです」
優しい眼差しを向けてくれる薫さんに、私も笑顔を返す。
すると、テーブルの上に出していた私の手に、薫さんがそっと自分の手を重ねた。
びっくりした私は手を引っ込めようとして、それを阻止される。
「ダメ。何も取って食べようなんて思ってないから、手ぐらいいいでしょ?」
そんなことはわかっていても、急激に速まった鼓動が手から伝わってしまわないか心配で落ち着かない。
「まぁ都子さんのそういう可愛い態度が、僕の意地悪心をくすぐるんだけどね。ところで都子さんにひとつお願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「お願いですか? いいですけど……」
とは言ったものの、内心何を言われるのか不安いっぱい。
ドキドキしながら薫さんの言葉を待っていると、彼はテーブル越しに手を伸ばし私の唇に指を乗せた。
「ふたりでいる時は敬語を使わないこと。これ、絶対の約束。もし約束を破ったらその時は……」
そう言って薫さんは目を細め、私の目を見つめる。
意地悪な薫さんのこと。その目は何か良からぬことを考えているはず。
はぁと溜息をつき諦らめて肩を落とすと薫さんはクスッと笑い、私の唇をきゅっと摘んだ。
「何でも言うことを聞いてもらうから、そのつもりで」
摘まれたままの唇では、反論することもできなくて。
意地悪なことを言っているのにその眼差しは優しくて、私の胸はどんどん熱くなっていった。