ベリーの魔法
コレットは籠を抱えて、《魔女の庭》へ向かった。
ここには薬の材料となる植物が植えられており、魔法で年中採取可能だ。
秩序なんて関係なくごちゃごちゃと生えていて、もちろん中には取扱い要注意の毒草なんかも混じっている。
「だけど、無暗に知らない草に触ったりしないわよ。メリッサったらわたしをこどもだとでも思ってるのかしら」
おまけにメリッサときたら抜けているところがあって、よく薬草のストックを切らすのでコレットが代わりに摘みにくることが多い。そのため、大体の薬草の位置や種類は把握している。
ぶつくさ言いつつ庭の中に入り、あちこちに生えているミントをひとつひとつ摘んでいると、どこからか甘い香りがふわりと漂ってきた。
何の香りかと辺りを見回すと、藁の隙間から赤く熟れたいちごが顔を覗かせているのを発見した。
「わあ……」
いちごはつやつやと光沢を帯びた紅いドレスでコレットを誘い、コレットはごくりと喉を鳴らした。
(これはどう見ても普通のいちごだし、一粒くらい、いいわよね……?)
甘い甘い香りも手伝って、コレットはとうとういちごに手を伸ばし、一粒もぎとった。
潰れてしまわないように指先でそっとつまんで、口へと運ぶ。
思った通り、甘酸っぱいいちごが口いっぱい広がって、コレットは幸福感に笑顔を浮かべた。
「メリッサにもひとつ、持っていってあげようかな」
そう呟いて、いちごに手を伸ばした瞬間―――
「……あれ?」
急に体中が熱くなって、ひどい眩暈が襲った。
(うそ……)
視界が急激に暗くなっていき、コレットは散らばったミントの上に倒れて意識を失ってしまった。