ベリーの魔法
メリッサはコレットをバスケットにいれて、箒に乗って街を目指した。
コレットはバスケットの隙間から下を眺め、初めて見る上空からの景色に感動した。
やがて街につき、メリッサは《薬屋》と看板が出ている店の前でふわりと着地する。
店の中に入ると誰かが出迎えに出てきたようだが、コレットの位置からは足しか見えない。
「メリッサ。何か御用ですか?」
「ルーク先生、助けてください!」
メリッサはバスケットをルークの前で開いて見せた。
バスケットの中のコレットを見て、ルークは目を見開く。そしてコレットもルークを見て目をまるくした。
メリッサの師匠だというから中年の男性を想像していたのに、目の前にいるのはどうみてもコレットより二つか三つ上の若者だった。それも、絵に描いたように美しい。
「これは一体何が?」
彼がメリッサに視線を戻すと、ひとつに束ねた長い金色の髪がふわりと揺れた。
「あたしの失敗魔法がかかったいちごを、コレットが食べてしまったんです」
「失敗した?」
「寝ぼけてて……」
視線を逸らしたメリッサに、ルークは腕を組んでため息をつく。
「メリッサ、前々からあなたは抜けているとは思っていましたが、あなたのうっかりで友人が死ぬかもしれないんですよ。反省しているのですか」
「はい……」
メリッサはしょんぼりと頭を垂れ、コレットは慌てて首を横に振った。
「メリッサが悪いんじゃないの。わたしがいちごを食べなければこんなことにはならなかったんです」
メリッサはちゃんと、コレットに言い聞かせておいてくれたのだ。それを勝手に食べたのはコレットなのだから、自業自得だ。
ルークはコレットの必死な視線を受けて、少し悩んだ末にわかりました、と頷いた。
「それで、かけようとした魔法は?」
「……覚えてないんです」
ルークの大きなため息に、メリッサは縮こまってしまった。今度ばかりはコレットも助けようがない。
やがてルークは諦めたように腕を解いた。
「それではメリッサ、しばらく彼女を僕に預けてくれますか? 時間もあまりありませんし……」
「もちろん! コレット、先生は天才で変人だから、きっと助けてくださるわ!」
「一言多いです」
ルークは笑顔でメリッサを窘めながらコレット入りバスケットを受け取り、コレットはバスケットの中でひとり狼狽した。
(いくら体が小さくなっているとはいえ、男性と一緒に過ごすことになるなんて!)