air-s Word



「聞いてくれ」と言おうとした。


けれど直は霧のように闇の中へと消えてゆく。必死に掴もうとしたけど、それはするり、と掌からこぼれ落ちていった。


直の顔に浮かぶ微笑は僕のことを憎んでいるように見えた。それを笑みで塗固めてしまったかのようだった。


「違うんだ!」



叫び声が反響する。
消えてゆく直をただひたすら追いかけようとした。



「……ぶ?…大丈夫?」


-どこからか、声が聞こえる。
しっかりとした響きを持って“現実”なんだと伝えてくる。


ああ、この声は直じゃない。


…じゃあ、誰だ?


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