ヒートハート
きっと、私との将来だって、何も考えてないんだろう。
『つきあう年数なんか、関係ないって』
ついさっき、知ったかぶりでそんなことを言ったけど、本当にそのとおりだ。
4年も長い春を過ごしたって、間延びするだけ。
手に入れたいのは、確かな未来への約束なのに。
考えれば暗くなるしかない思考を切り替えるべく、パンツのポケットから携帯をとりだす。
そういえばさっき、メールを受信していたはず。
携帯を操作すると、メールを2件受信している。
そのうちの1件はメルマガで、年始から始まるバーゲンの案内だ。
チェックしていたカシミアのニットがセールになったら、嬉しいけど。
わずかに期待をふくらませながら、軽快に指を動かす。
もう1件は、彼からだ。
口元がゆるみそうになるのを実感しながら、メールを確認する。
けれど。
『残業決定。今日は遅くなりそう』
ガン見までして。
襲ってきたのは、半端ないほどの落胆だった。
イブは絶対に早く帰れるから、せっかくだからおいしいもん食べて帰ろう、と前日、確かに嬉しげに話していたのに。
まさかのドタキャンなんて、ありえない。
“ごめん”のひと言くらい添えられていたなら、引きつった笑顔でも鷹揚に許せたかもしれないのに。
なんてことをしてくれるのよ、もう。
4年も一緒にいると、長くいすぎて、彼女への気づかいすら、できなくなるものなんだろうか。
1分でも、1秒でも早く仕事を片づけて帰ろうと考えていた私が、愚かだ。
あきれすぎて、情けなくて、返信する気にもなれない。
もういい、今日は残業をしてやる。
ふつふつと湧きあがる憤りとともに、携帯をパンツのポケットに押しこむ。
熱湯をそそいだマグカップを持ってデスクに戻ると、文字を打ちこんでいく。
「すっごいスピードで入力してるねえ。眉間にしわ寄っちゃって、怖いよ」
たまたまそばを通りかかった上司が気楽に軽口を叩いていくけど、気にしない。
全部全部、彼のせいだ。