さよなら魔法使い
「ねえ、これ店のツリーに飾ってもいい?」

リースの言葉にトゥーリは勿論と頷いた。

「あなたの魔法使いのオーナメントも飾ってあるわよ?」

魔法使い、その響きにさっきまで幸せそうに微笑んでいたリースの表情は急に硬くなり視線が落ちていく。

それもまた懐かしい記憶、いや、彼女にはまだ懐かしむことのできないものだった。

「…そう。」

明らかなリースの反応にトゥーリも表情を曇らせた。

リースは手にしていたオーナメントを眺めて遠い目をする。

「ムッシューノエルの時はね。あの後ろ姿を見送ったら…もう会えなくなるって小さいながらに分かっていたの。また会いにくるって言葉も気休めに聞こえた。」

ちりめんのオーナメントの向こう側に見えるのはあの時の記憶。

「寂しかったけど、次第に記憶も薄れていったわ。」

そう言いながらも寂しく微笑むリースの気持ちはほんの少し温かかった。

でも彼はそうではない。

魔法使いの存在は今なお強くリースの中に残り、こんなにも胸を締め付けるのだ。


< 6 / 19 >

この作品をシェア

pagetop