さよなら魔法使い
かしこまったような形に目が合うだけで自然と笑みがこぼれだす。

「確かジベルが初めて来たのは…。」

「ノエルよ。ノエルの日に来て次の年のノエルの日に帰っていったの。」

「そう、そうだったわね。」

母の曖昧な記憶を助けるようにリースは得意げに口を出した。

そこから始まる思い出話はどんどん膨らみを増していく。

まだリースがリセと呼ばれる高等学校の最終学年の時だった。

そして一番彼女の気持ちが荒れている時でもあったのだ。

思春期も真っただ中というか、遅すぎる反抗期というか、とにかく彼女は自分でもどうにもならない我儘な時期に魔法使いジベルに出会ったのだ。

「口が悪かったのよね、あの子。」

「悪いなんてもんじゃないよ!どれだけ酷いこと言われたか!馬鹿だの、ガキだの、甘えているだの、もう滅多打ちよ!?」

「親としては楽だったわよ。」

興奮するリースに対し、ふふふと微笑みながらトゥーリはコーヒーを口にした。

どうにも話を聞く耳持たない娘にここぞとばかり口を出してくれる存在は本当に有難かったのだ。

ジベルという青年はコースケと同じ様にパン屋である父の元で修業していたため、リースが家にいる限りほぼ毎日顔を合わせていた。

会う度に家族に生意気な態度をとるリースを見かねて説教を始めたのが始まりだったのだ。

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