さよなら魔法使い
「いい加減にしろ、何様だ、一人で金を稼いだこともないガキが甘えてんじゃねえ。大して年も変わらない奴に言われた私のプライドはもうズタボロな訳。」

「大した自尊心ね。」

「いいのよ、若気の至りでしょう?」

頬を膨らませてコーヒーをすするリースの姿は昔の自分を恥じているようだった。

自分でも分かっていたのだ。

あの頃の自分がどれだけ酷い人間だったかということ、それは年を重ねるたびに耳を塞ぎたくなるほどの恥ずかしさを味わわせる。

それを気付かせてくれたのは真正面からぶつかってきてくれていたジベルがいたからだった。

彼はよくケンカをしてくれた。

彼はよく叱ってくれた。

彼はよく声を張り上げていた。

彼はよく気にかけてくれていた。

これほどまでに自分のすべてをさらけ出して泣いたり笑ったり怒った相手はいない。

あれからいくつかの恋愛をしてきたけど、彼に勝る心の震えは無かった。

手を繋いだのは一度だけ。

最初で最後の一度がこんなにも右手に、リースのすべてに刻まれているのだ。


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