イヴ ~セカンドバージン~
上川先生はそんな私を知らない。
生徒達の「サヨウナラ。」も聞こえなくなる頃やっと力が抜ける。
生徒の前ではある程度気構えなくてはやっていけない。
空がオレンジから紺色に変わる頃職員室を後にした。
上川先生はまだ残っていて何か言いたげな顔をしていたが、横を素通りすると校舎を出た。
外の風は一段と冷たくて下向き視線で歩くスピードも増していく。
「羽衣さん。」
正門に近づくと名前を呼ばれて顔を上げた。
正門に寄りかかるように立っている男性の姿が目に入る。
「郡山さん、どうして…」
「すいません。ビックリしましたよね待ち伏せなんて。」
「だって私学校まで教えてませんでしたよね?」
「すいません部長に聞きました。 すんなりお食事の件は了承してもらえたのですがいざ連絡を取ろうと思ったら連絡先聞いてなくて。部長に伺おうと思ったのですが羽衣さんに直接伺うのがいいかと。」
「お父さんに聞いてくださってよかったのに。それで寒い中待っていてくださったんですか?」
「ええ。早く羽衣さんにお伝えしたくて。それでお食事いつにしますか?」
「郡山さん、この後お時間は?」
「帰って寝るだけの身ですから。時間は腐るほど」
「ならこれからお食事付き合ってもらえますか?」
「これからですか? 嬉しいですけどどこも予約していませんよ」
「いいのいいの。郡山さんとならどこでも楽しいと思いますから」
ひとりで居たくない夜に私を待っていてくれただけでもなんか嬉しくて。
どことなくあるぎこちなさが心地よかったし、私が上司の娘だからこの人は私に手は出さない。そんな根拠もない自信もあった。
何よりも楽しいひと時を過ごす事で脳裏に繰り返し浮かび上がる上川先生の顔を消してしまいたかった。