イヴ ~セカンドバージン~
「本当にここでいいんですか?」
「はい。郡山さんの行きつけのお店がいいんです。」
まずデートでは行かないだろう居酒屋の前で郡山さんが店を指さしながら申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「本当にいいんですか?」
「いいんです。行きますよ」
今からでも店を探し出しそうな郡山さんを差し置いて居酒屋の入り口に手をかけた。
中はそれなりに広くて「らっしゃい」っと大声が響き渡る。
「俺、ひとり暮らしですから自炊もしますけど面倒な時はここに助けられています。」
郡山さんは慣れた手つきでおすすめを注文していく。
「羽衣さん、次は必ずこんな所よりもっと良いところを予約しますから。」
「悪かったわね。こんな所で」
料理を片手に現れた女性が会話に割り込む。
「おかみさん、そういう意味じゃなくて。」
たじたじになりながら慌てる郡山さんが可笑しくて店のおかみさんと一緒になって笑った。
「私このお店の雰陰気好きですよ」
「ありがとうお嬢さん。郡山君はなかなかの好青年だからよろしく頼むよ。」
「はい。」
そんな会話もあって食事の時間は思っていた以上に楽しくて。
彼の友達の話しとか家族の話し、会社でのお父さんの話しなんかも聞けて時間が経つのを忘れてしまうほどだった。
自宅までの帰り道も車道側を歩いていた私を歩道側にさりげなく誘導してくれて彼の優しさに彼と居る心地よさにこのままもう少し一緒になんて事まで考えてしまっていた。
それでもそう思えるのはふたりの関係が定かなものではないから。
そう思っていたのに…
「イヴを一緒に過ごしてもらえませんか?」
「えっ?」
「イヴは大切な人と過ごしたいんです。」
彼の誘いはいつも急で…
私にとってクリスマスは最低最悪な日に過ぎないのに。