イヴ ~セカンドバージン~

警察署に到着すると泣き崩れている生徒、顔を腫らし怪我をしている生徒、ひたすら警官に頭を下げるご両親方の姿があった。そんな姿に「俺らは何も悪くない!!」そう叫ぶ生徒も。

事情を聞くと「俺らは何も悪くない!!」と叫んだ生徒の気持ちもわかった。
私は24歳と生徒に歳が近いせいか、ついつい生徒目線で物事を見てしまいがちでよく先輩教師に「生徒になめられたら終わりです。」っと注意をされていた。

でも生徒の気持ちも考えずただ悪いと決めつけて頭を下げる両親の姿は生徒達にどう映っているのだろう。
そこに生徒を想う何等かの言葉が必要に思えた。
ただ生徒たちは他校の男子生徒に絡まれているクラスメイトの女子生徒を守っただけなのだから。
私が親なら「よくやったね。守りきるなんてすごいね」って褒めていたかもしれない。

それに違和感を感じる世の中でも。誰かを必死に守るための暴力ならって考えてしまう。
こんなことを考えてしまう私は教師失格なのかもしれない。

保護者に付き添われて帰宅していく生徒達の後ろ姿を見送りながら、傷つきながらも仲間を守った生徒達を誇らしくさえ思えた。

 「羽衣さん。」

 「郡山さん何で!?」

名前を呼ばれ振り返ると彼が立っていた。
警察署について1時間近くは過ぎていた。

 「よっぽろ慌ててたんですよね。鞄」

彼の手に抱えられている私の鞄。

 「すみません。私… ずっと待っていてくださったんですよね。本当にすみません。」

彼に言われるまで鞄を手にしてない事すら気づいていなかった。

 「明日部長にでもお預けしようとも思ったのですが、それでは羽衣さん困られるかなと思いまして。」

 「本当にすいません。ありがとうございます。」

 「もういいんですか?」

 「はい。生徒達の怪我もたいしたことはなくて、喧嘩の理由もクラスメイトの女子生徒を守るためでしたし、相手は他校の生徒らしいんですが逃げてしまって、あの子達は座り込んで泣きじゃくるクラスメイトの女子生徒を置き去りに出来なくて駆けつけた警察官に補導されたみたいです。喧嘩の理由も理由なので保護者の方と一緒にみんな帰りました。」

 「なんか嬉しそうですね。」

 「こんな時に不謹慎ですよね。でもクラスメイトを見捨てなかったあの子達を思うと嬉しくて。教師なら暴力は絶対にいけない事だと教えないといけないんですけどね」

 「いいんじゃないんですか? 大切な人を守るためなら俺はそう思いますけど。」

 「郡山さん…」

 「あっすいません。軽率でした。もう帰られるんですよね送っていきます。」

 「そんな…私なら大丈夫ですからこれ以上ご迷惑おかけできません。」

 「迷惑とか思っていたら言いません。羽衣さんをちゃんと送り届けたいんです。」

男の人に優しい言葉をかけられるのも久しぶりな気がした。
彼の言葉に素直に甘えたのはお父さんの部下で、紳士的で…自分に言い訳をする。

私はもう誰も好きになれないのだから。





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