イヴ ~セカンドバージン~
「葛城先生、昨晩は大変だったようですね。電話くれたら俺も駆けつけたのに」
「私のクラスの生徒の事ですから、上川先生に足を運んでいただく事はないかと。」
「そんな事言わなくても。今回問題起こした生徒は俺が去年担任した生徒ですし何かと相談に乗れると思うんですが。なんなら放課後にでも…」
「結構です。私の事より奥様の事心配されたらいかがですか?妊婦さんは色々大変らしいですし仕事が終わったら急いで帰ったらいかがですか?」
「冷たいな羽衣。」
「その呼び方辞めて下さい。 私達の関係は2年も前に終わっているんですから。」
この男と毎日顔を合わせなくてはいけない事がどれだけ私にとって苦痛でしかないか全然わかってない。
この男こそが私のトラウマの原因なのに。
私がこの高校に赴任して来て間もない頃上川先生は私の指導係だった。
彼の優しさ、生徒への接し方を目の当たりにする度に少しずつ私は彼に惹かれていった。
でも彼は私の1年先輩の家庭科の教師とお付き合いしていた。
それは学校全体も公認の中で誰もが認めるベストカップルにさえ思えていた。
そんな彼から彼女とは別れたと聞いたのは寒さがそこまで迫ってきているそんな10月の終わり頃だった。
学校では相変わらず仲がいいふたりを見ていたら嘘のようにも思えたが、彼女の方から少し距離を置きたいと言われた事は事実のようで「あいつが何考えているかわからない。態度は変わらないし女って別れた男とも平気で友達みたいに接せる生き物なん?」そんなふうに彼が私とふたりきりの時に見せる表情は暗く落ち込んでいた。
そんな彼の様子を見守り続けて1カ月を過ぎた頃彼から「つきあってほしい。」と言われた。
彼にとっては彼女の事を吹っ切る口実かもしれない。
寂しさを紛らすためかもしれない。
それでも私はよかった。彼が私を選んでくれたのならそれでよかった。
学校ではほとぼりが冷めるまで付き合っている事は秘密にしたいと言われても彼の立場を思えば我慢出来た。
それなのに、私に絶望とトラウマを残すだけのあの瞬間は訪れた。