天使のラプソティ~声になる~

一歩

放課後、動物病院に行くと、院長先生が優しく迎えてくれた。
待合室のテーブルに案内されて座らせてもらう。

「本当に来てくれたんだね。ありがとう」
「約束は守る男ッスから」
ふざけて言ったら笑われた。

「あいつの様子はどうですか?」
「よっぽど事故が怖かったんだろうね。全然鳴かないんだ」

先生は寂しそうに言った。


猫もショックを受けたら声が出なくなるんだな・・・・。


「でも少しずつ回復してきてるよ。今朝はホットミルクを飲んでくれた」

先生は病院の奥に行くと、カップを二つ持ってきた。
「君も飲むかい?」
渡されたカップは丁度いい温かさだった。

「ありがとうございます」

ホットミルクなんて10年ぶりくらい懐かしい。
チビだったころはよく寝る前に飲まされていた。

もらったホットミルクは

温かくて

甘い。


じんわりと体中に広がった。


未央の歌声みたいに、優しく俺を包む。





「あの女の子は一緒じゃないんだね」

どきっとした。


今日は一日中未央のことを考えてた。


俺はこれからどうしたら良いのか。



未央の事情を知ったとき、驚いたけど同情した。
可哀想だと思う。

何かできることがあるならしてやりたい。

けど、そういう思いは中途半端なら傷つけるだけなんだよな。



自分の気持ちがどこまで本気かわらないし、
未央はどんな気持ちなのかわからない。





けど、事情を知って離れてったら、余計に未央を傷つけないか?






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