天使のラプソティ~声になる~

俺は未央に笑いかけた。未央も笑い返す。
そのとき、先生がやってきた。
「ごめんね時間がかかってしまったよ」

何十枚も印刷された紙がどさっと机の上に置かれる。
「すごい量ですね」
「早く飼い主を見つけてあげたいからね。ずっとここにいさせてあげることはできないんだ」

俺らは三人で分担してポスターを配ることにした。
先生のつくったポスターはシンプルだった。
書かれてるのは猫の特徴と病院の連絡先だけ。でも大きな字で書かれてるから、逆に目を惹きそうだ。

雨がふっても大丈夫なように20枚くらいビニール袋に入れて立ち上がった。
「今少し貼りに行くか」

未央もうなずいて立ち上がる。
「いってらっしゃい」
先生が手を振る。
俺らは荷物を病院に置かせてもらって外に出た。

とりあえず怒られなさそうな電柱にガムテープで張っていく。
未央がテープを一枚一枚きれいに切って俺に渡してくれた。

「見つかるといいな、飼い主」
未央は笑って首を縦にふった。


俺らは15枚くらい張ったところで病院に戻ると、お客さんが来てた。

大きな毛並みのいい真っ黒な犬を連れてる。
ラブラドールて言うんだっけ?

「お疲れ様。ちょっと待っててね」
先生がその犬の頭を撫でながら言った。
飼い主らしいおばさんがこっちを見て頭を下げた。先生みたいに優しそうな人だ。
未央が頭を下げたので俺も下げた。

俺らは邪魔しないよう待合室の机のところに座った。

「ああいう犬ってかっこいいよな。欲しいなあんな感じの」
小声で言うと、未央はさっきのノートに文字を書き出した。

『でも少し怖いです』
「大きい犬苦手?」

『少し・・・・。口を開けたときが怖いです』
俺は笑った。



俺が言って、未央が書いて答える。

会話がゆっくり進んでく。


時間がゆっくりゆっくり流れていく。




未央といるとき、ゆったりした時間が流れる。


今までこんな女の子はいなかった。


未央が文字を書くのを待ってる時間も全然いやじゃない。

こんなに落ち着く人、はじめてだ。





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