天使のラプソティ~声になる~
「なぁ、ケータイ持ってる?」
未央はうなずいて鞄から取り出した。
白いケータイに羽のストラップがついてる。シンプルで可愛い。
「アドレス交換しよっ」
未央はちょっと驚いた顔をしたけど、微笑んでうなずいた。
俺もケータイを取り出して赤外線通信する。
「なんかあったら俺にメール送ってよ」
未央は照れたようにはにかんだ。
診察が終わったらしく、診察室からさっきの犬と飼い主さんが出てくる。
未央がびくっとした。
俺は席を立って飼い主の人に話しかける。
「かっこいい犬ですねー。触っていいッスか?」
「あらありがとう」
飼い主さんは嬉しそうに笑った。
「来いよ」
未央を呼ぶ。
未央は怯えながらもゆっくり近づいてきた。
俺は犬の頭をなでながら言った。
「大丈夫だって」
未央の腕を引っ張って、指先を犬に触れさせた。
未央はびくっと指をひっこめて、またおそるおそる頭に触れる。
その間、犬はじっと大人しくしてた。
「な?」
未央の顔を見ると、困ったように笑ってた。
「こういう種類の犬って頭良いんだって。海で救助犬とかやってるらしいぜ」
ですよね、と飼い主を見た。
「よく知ってるわね」
と笑ってうなずいてくれた。
「田中さん、会計するよー」
受付のほうで院長先生の奥さんが笑顔で声をかけた。
「またね」
飼い主さんが俺らから離れた。首輪をつながれた犬は素直に着いてく。
「育ちの良さそうな犬だなー」
未央がくすっと笑った。
「やあやあごめんね。じゃあ、ポスターよろしく頼んだよ。学校の友達にも聞いてみてくれ」
院長先生が診察室から出てきた。
どうやらまたお客さんが来るらしい。小さな病院だけど、近所の人に信頼されてるんだな。