天使のラプソティ~声になる~
「ミルクは?」
「まだベットの中です。今日は混んでるから受付待ちですよー」
中条が楽しそうに笑った。二週間も愛猫がいなかったから、帰ってくるのが嬉しいんだな。
隣で未央も微笑んでる。
「院長先生は診察中?」
「私たちが来たときから忙しそうでしたよ。でも順番そろそろだから、もうすぐ来るはずです」
「あ、忘れてたけど俺に敬語いらねーよ?」
「いえいえミルクの恩人ですからっ!」
中条は目をきらきらさせてきっぱりと言った。
そういうとこはしっかりさせたいらしい。明るくてはっきりしてる。
未央にはこういう友達が必要なのかもしれない。
「中条さーん、ミルクちゃん退院しますよー」
受付の奥さんが名前を呼んだ。俺らは顔を見合わせて、いそいそと診察室に入る。
「待たせてごめんね」
院長先生がミルクを抱きかかえてた。
「ミルク~っ!」
中条はかけ寄って、先生からミルクを受け取った。
「だいぶ良くなったと思うよ。でもまだ外には出さないでね。一週間後くらいにまた診察を受けに来てね」
「はい!ありがとうございます!!」
中条は、ぎゅうっとミルクを抱きしめた。
「ケガは治ったんですか?」
「ああ。でも念のためしばらくは家で大人しくさせとくようにね」
「もちろんです!」
未央は診察台の上にミルクを置いた。
ミルクはおそるおそる足を前に出した。
ゆっくりゆっくり歩く。
そのとき、俺はミルクを助けたときを思い出した。
あのときは弱弱しく地面に転がってて
血だらけで震えてた。
今にも命が消えてしまいそうで、すごく怖かった。
あんなに苦しそうだったけれど、今はこうして元気に動いてる。
人間の優しい手によって再び命に光が与えられた。
そう思ったら、すごく感動してきた。
ミルクは俺の気持ちをわかったように振り返って
「にゃー」
小さく鳴いた。