【X'mas】可愛い君へ。
やっとの思いで全ての準備を終え、その腰をソファに下ろすとジーンと心地よい痛みがそこに広がった。
いくら今年が去年までと違うと言っても、それはあくまでプライベートの話。
いつもより客が多くなるこの日は、どうしても体にかかる負担も大きかった。
「ん?」
そんな痛む腰を指で押してほぐしていると、目に入る足元の小さな存在。
先程俺が下ろしたカバンに顔を突っ込み、なにやら物を取り出そうとしている様子。
(なにやってんだ?)
「フィーオ。……あ。」
カバンを取ろうとしたと同時に、潜っていたフィオの顔が外に出た。
と、その口元に加えている物を目にし、すっかり忘れていた出来事を思い出す。
『良かったら…食べてください。』
そう言って、先月入ったばかりの新人、心ちゃんがくれたクッキー。
高校を卒業したてのその子は、男性客からすぐに気に入られ、今では店の看板娘的な存在になっている。
そんな子が、バレンタインでもないこのイベントにどうして俺なんかに手作りのそれを渡したのかはよく分からないけれど…。
可愛らしいピンクの包み紙をフィオの口から取り上げ、丁寧に結ばれたリボンを解くと、すぐにクッキーの柔らかな香りが部屋中に広がった。
ハート型のそれを一つだけ摘む。
そして、それを口に運べば優しい味が口腔内に広がり、彼女らしいとそう感じたのだが…。
「…ん?」