クリスマスの贈り物
「君の全ての時間を僕にください。」


あれからーーー
クリスマスイブに電話で思いがけず
プロポーズをされた日から
随分と長い長い年月が過ぎた。


私たちは夫婦となり、
父と母になり
そして
おじいちゃん、おばあちゃんになった。


それでもこうして
お互い年々、
ポンコツになりながらも
元気に過ごしている。


自宅近くの公園の散歩道
二人寄り添いながらゆっくりと歩く。
ここは街中と違って
特別、イルミネーションが
施されているわけでもなく
とてもとても静かに聖なる日を
祝っていた。


「そこのベンチにでも座らない?」


「ああ、そうだな。」


「暖かいお茶でも持ってくれば
良かったかしら。」


「なぁに、帰りに
昔、よく行った店で珈琲でも
飲もうじゃないか。」


「あら、あなた
あそこは先月店じまいなさったのよ。
マスターが長年の腰痛で
それに後を継いでくれる人もいないとかで」


「どんどんと、
時代が終わって行くな。
寂しいものだよ。」






住宅街の一角にある公園は
あまり遊具らしきものもなく
子供一人遊んでいなかった。


「君は覚えているかい?
そのーーーー
クリスマスの約束」


「ーーーーええ、
もちろん、覚えているわよ。
一度も果たされてませんけどね。」


約束とは彼がプロポーズの時に
毎年のイブに何度でも
プロポーズの言葉を言うというものだった。


結婚してからもお互いに仕事で
忙しく、やがて
子供に恵まれると
今度は子育てに翻弄され
そうして時ばかりが流れて行き
気づけば二人とも随分と
歳を重ねてしまった。
けれど
私たちは間違いなく幸せな時間を
積み重ね共に送ってきたのだ。


「なぁ?」


「なんです?」








彼は姿勢をただし、
私の方へ向き直ると


「これまでもたくさんの君の時間を
貰ったけれど、まだまだ僕は
君の時間が欲しいんだ。
いや、二人でこうして過ごす
君との時間が欲しいんだ。
僕たちに後、どれくらい残されているのか
わからないけどーーー
これから先の君の時間も僕にくれるかい?」


昔から妙に真面目な所がある彼は
思い立ったら直ぐ進むところがある。
こういう人だから
なんの前触れもなくしかも
次の日に会う約束をしているのに
電話口でプロポーズをしてしまう
ところなんだろうな。
と、
改めて思ってしまう。


そして、今日も。


「クスクスっ、良いわよ。
本当にあなたっていくつになっても
突然なんだから。バラの花束の一つでも
用意するものよ、プロポーズと言えば。」


「相変わらず、手厳しいな君は。
花束はないんだけれど……」


そう言うと彼は
着ていたジャケットのポケットから
小さな包みを取りだした。


「ほら、手を出して。
おもちゃだけどね。」


「えっ………まぁ……。」


左手の薬指には
小さなバラの花がついた
おもちゃの指輪がはまった。


「ほら、昨日
あいつらとおもちゃを買いに行っただろ。
そこで見つけたんだ。
君が喜ぶかと思って。」


あいつらと言うのは
孫たちの事で冬休みに入り、
早速、クリスマスのプレゼントを
ねだりにやって来たのだ。


「ふふっ、可愛い。」


「そうだろ?」


いい歳をした二人がおもちゃの指輪をみて
喜んでいるなんてーーーー










「なんて幸せな時間なんでしょう。」


彼は「それは良かった。」
そう言って優しく微笑んだ。


どうかーーー
まだこの先も二人の時間が
続きます様に。
この約束が永遠でありますように。


私はそっと
おもちゃの指輪に願った。



























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