普通に輝くOL
夕飯時、郁香と優登と清登の3人で食べていた。


「直登さんは社長だから遅いの?」


「いや、そんなことないよ。
早いときは早いし、昼に家で寝てることもある。

今日は不動産関連の会合があるとかってメールがきてたから、それで遅いんだよ。」


「そ、そうなの。
清登くんのところにそういう連絡は来るの?」


「いや、アレで見た。」


清登がアレといって指差した方向に、小さなノートパソコンが置かれていた。


「まぁ・・・ダイニングにパソコン!!」


「あのパソコンに俺たち兄弟は連絡をいれることにしてるだけ。
その方が、心配せずに済むしね。

そだ・・・郁香にもアドレス教えておくから残業とかあったら送ってね。」



「うん、そうする。」



「おい、2人とも風呂はまだなんだよな。
俺、明日早出だから1番に入らせてもらいたいけど、いいかな。」


「うん、いいよ。優登1番すぐ行けるんでしょ。」


「俺もいいよ。」


「じゃ、清登くん2番続いて行って。
私は最後でいいから。」



「いっしょに入っても俺はかまわないよ。」


「清登くん!!!」


「じゃ、3人で入るか?イヒヒヒ・・・」


「優登も、何考えてんのよ。エッチ!!!フン。」



結局、清登が郁香にお風呂が空いたことを伝えたのは、22時すぎのことだった。

それから、郁香がすぐに着替えを持って脱衣かごに用意してお風呂に入り、22時30分頃にあがってバスタオルに手をのばした瞬間、入口のガラス戸がガラっと開いた。


「えっ・・・!!」



「あ・・・っ・・ご、ごめん!」


郁香と目があったのは帰宅したばかりの直登だった。



「あ、ああ・・・や・・・ぎゃああああああ!」


「うわぁーーー!ごめん、少し酒が入ってて郁香のかごに気がつかなかったんだ!
ごめん、ほんとに、すいませ~~~ん!」


郁香はあわてて、服を着るとお風呂場近くにいた直登に目もくれず、自分の部屋まで走っていってしまった。


「はぁはぁ・・・もう、やだ。」

(酔ってるなんていっても全部見たくせに!)


部屋でベッドに倒れこむと、少し落ち着いてきた。


(会合だったから、お酒も出たのね。
こういう家だから、うっかりとこんなこともあるかななんて思ってたけど、ほんとに起こっちゃったなぁ。

いちばん遅くまで働いて帰ってきて、何か食べてるのかな?
ちゃんと自分の部屋までたどりつけたのかしら?)


そっと台所をのぞいてから水でも飲んで部屋にもどればいい・・・と思った郁香は階段を降りていくと、台所から灯がもれている。



「おかずを温めましょうか?」


「あ、自分でやるから気を遣わなくていいよ。
それに・・・僕はさっき怒らせてしまったし・・・。ほんとにごめん。」


「いっぺんに酔いがさめましたか?」


「そりゃ、もちろん。・・・怒ってる?よね。」



「直登さんだから許してあげます。」


「ぇえ?何かあった?」


「私がここで生活できるように、私のことを調べたり、おじいさんに報告したりしてたって清登さんから聞きました。」



「うん、徹朗じいさんに孫がいるのがわかって、その人がまさかのうちに入社してたってわかったときにはショック半分でうれしさ半分だった。

僕には傾いた本社だけ押し付けて、おいしいところは全部孫娘のものなのかって正直なところは思ったんだけど・・・君のことを調べていくうちに、だんだん楢崎郁香が相続するのはあたりまえな気になった。

君はかなりの功績をたった1年であげてくれていたし、さすがじいさんの孫だけのことはあるって気にさせられた。

広報の人に話をきいてみても、いいことばかり聞こえてきて、これはぜひうちにきてほしいなって。」


「で・・・今夜のアクシデントですか?」


「そういうこと。目に何か映ったけど僕はしっかと見ていないし。」


「うそばっかり!・・・ぶっ。」


「な、何笑ってるんだ?」


「だって、ほんとに私にお兄ちゃんがいたら、今の直登さんみたいなのかな?って思ったから。
しらばっくれたりしてね。
それに、会社をクビになりそうになったら、社長に裸を見られたって訴えちゃおうかな。」


「ぶっ!!ひどいなぁ。
それでなくても、うちの女子社員は僕には手厳しいし、すっごいおやじだと思ってるし・・・困るんだよなぁ。」


「あら、どうして?それだったら玄関に代表取締役ですって写真張っておけばいいんじゃない?」


「いやだ。徹朗じいさんも厳格な人だったけど、威張り散らしたワンマン社長じゃなかったから、僕は尊敬して後を継いだんだ。
それに・・・目立ちたくない・・・。」


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