普通に輝くOL
目の前にいる長身のスーツの男が、なぜか高校生の男子のように見えて郁香はクスッと笑って言った。


「ご自分の家なんですから、直登さんの好きにすればいいんです。
そしてどんどん私に話しかけてください。

呼んでくれたら、直にいのもとにかけつけますって。
それと、家にいるときだけでなくても、会社でもお話はきけます。
たぶんお仕事の話ならとくにね。

だって、直にいは社長なんだもん。
さぼってる!って怒られないでしょう?ウフフフ。」


「そういえばそうだ。あははは。
秘書たちは使い慣れているから仕事を頼めるけど、そうじゃないところって意識してたのかなぁ。
それとも僕は社長の自覚が薄いのかもしれないな。

あ~疲れた・・・僕はシャワー室使って着替えてくるから、君はお風呂使って。」



「はい。じゃ、おやすみなさい。」



その後、郁香は寝ようとベッドに寝ころんだものの眠れないので台所へいった。


「あれ、明るいわ。」


「郁香・・・まだ寝なかったのかい?」



「直にいこそ何してるの?・・・ブランデーの香り!」


「紅茶にね。眠れねえって酒あおって・・・とやりたいところだけど、明日は例の女性専用シリーズのデザイナーたちが来るだろ。」


「緊張してるんですか?」


「君は緊張しないの?さすがに彰登相手には緊張なんかしないけどさ・・・あと3人は未知なるものを引っ提げてくるわけだから、僕にそれが理解でき得るものなのか・・・ね。

結局のところ、君や部長頼みになる部分が大きいし。
あと、気になるのが女性専用なのに女性のデザイナーの参加は1名だ。
それもベテラン女史で、エスニックなのは個性的だが、見た限りは若い女性向きとは言い難くてね。

落ち着きすぎというか・・・僕より上の年代にウケそうかなって思うし。」


「そうですね。サンプルを見た限りは、喫茶店とかホテルのホール部分っぽい感じですよね。
日常だと飽きがきそうだなって思いました。

で・・・どうして今、仕事の話を・・・。プッ・・・。」


「そういえば、そうだね。フフッ。
だけど、こんな話を女性にしたことは副社長からこのかた・・・したことがないなぁ。
プライベートで会った女性は仕事の話なんか聞きたがらないしさ。
やっぱり、ここに郁香を引っ張ったのは正解だ。

いや、僕らが居候させてもらってるが正解なんだけどな。」


「居候なんて・・・。ここを守ってきてくださってたんじゃないですか。
私は相続しただけです。
まだ、もとのアパートの部屋が恋しいくらいなのに。」


「えっ、もとの所がいいのか?
ここは嫌なのか。そりゃ・・・男所帯になってて申し訳ないと思うけど・・・。」


「ぷっ・・・もう、直にい、そんなに真剣に落ち込まないで!
お部屋が広くて、見た目がゴージャスなことで落ち着かないだけですから。」



「ほんとにそれだけ?」



「え・・・な、何ですか?すごい疑いの目みたいな顔してる。」


「ここだとさ、彼氏が堂々とやって来れないとかね・・・。
社内恋愛が社長や別の社員にバレバレになってしまうとかね。

見た目常識をはるかに超えてしまってるような彼は僕たち兄弟に撃退されかねないとかね。
男じゃなくても、いっぱい友達を集めてワイワイしにくいとかね。

こっそりと乙女の不満を抱えているのかと思って。」



「うぉ・・・おっ、乙女の・・・ですか!ブッ、ぶわっはははは。」


「ちょ、声が大きいって。」


「ほんとにもう・・・(なんでこんなかわいいこと言うのよ、このおじさんは。)
現在、彼氏なんていないし、いたとしてもここに堂々とやってこれないような腰抜け彼氏はいりません。

ん~~と友達集めて何か・・・っていうのは学生のときだったら思ったでしょうけど、仕事初めて私はまだ1年しか経ってないし、それもまだ考えられないです。

それに・・・」



「それに?」



「私は物心ついてから身内がいないから、精神的な部分ってずっとひとりぼっちだったでしょ。
今だって、いきなりできたお兄ちゃんに圧倒されてるっていうか、面白いっていうか、家族ってこんなのかなとか。
もっともっと毎日に発見があるような気がして楽しみなんですよ。」


「そっか、圧倒されてるのか・・・せめて小夜が家を拠点にしていれば違うんだろうけどなぁ。
あいつ、僕に似てけっこうひっぱりだこのモデルだから世界中飛び回ってるし。」


「小夜さんは優登に似てるような気がしますけどぉ・・・。」


「なぁ、どうして優登だけ呼び捨てなんだ?」


「だ、だって・・・同じ学年だし、同じ社員どうしだし。
え・・・ここは落ち込むとこじゃないと思うんですけどぉ。」



「僕もたまにでいいから直登って呼んでほしいと言ったら?」
< 18 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop