普通に輝くOL
郁香はゴクッとおかずを飲みこんで、目の前で土下座状態の彰登に声をかけた。


「彰登さん顔をあげてくれませんか?」


「郁香・・・!?」


「あ~~~ん・・・卵焼きどうぞ。」


「あむっ!」


「わざわざ、謝りに来る必要なんてないですよ。
私がでしゃばったのは悪かったんですから。」


「ゴクッ・・・そ、そんなことないよ。
たとえでしゃばったとしても、僕はあんなことを言っちゃいけなかった。
まだ、でしゃばるなって怒鳴る方がずっとマシだったんだ。

それなら、兄弟そろって子どもかぁって僕たちだけにみんなの目が向いたはずだから。

直にいの言うとおり、僕は君の先輩でも上司でもない。
部外者のデザイナーなのに決定権のある担当者を侮辱してしまった。」


「もう、いいですから。」


「よくないって。よくない!
どうして、直にいの逃げ場所で君がお弁当食べてるわけ?
なんで、いつのまに・・・そんな心が通じ合ったわけ?」



「えっ・・・だっていっしょに住んでるんだし、今日のことは昨日も緊張するって話してたし、落ち込みそうになったらここを使うといいって直にいが教えてくれたから・・・。」



「なんかムカついてきた!
君があの家に住むようになったら、そんなステキな家族っぽいことになってるなんて!

これから、僕もぶっ続けで描かなくていい日はそっちの家に帰ることにする。
広報でいっしょに仕事することが多いからではダメだな。」



「はぁ?」


「それと、今日の罪滅ぼしも兼ねて、今夜のディナーをおごるから。
もちろん家まで送って行く。
そう、直にいに言っておくから。いいね。」


「でも、私は家にもどって夕飯を・・・」


「頼むよ、何もなしで許してもらうなんて堪えられない。
郁香様、何とかディナーを了解してください。」



「彰登さん・・・了解しないとダメなんですよね。
わかりました。ごちそうになります。」


「よかった、ありがとな。
じゃ、先に会議室にもどってるな。
これからは屋上に行かせないようにするから。」



郁香はとりあえず彰登の誤解がとけてよかったと思いながら会議室へともどっていった。

すると、もう専属デザイナーが決定していて予想どおり長月静留が直登に挨拶していた。


その後、にっこり笑って郁香の前に現れた静留は近くにいた彰登に聞えよがしに声をあげた。


「いよいよ僕もダンスのパートナーと同格になれたのかな。
決まったお祝いをぜひ、あなたにお願いしたいんですけど、いかがですか?」



「それがあの・・・」



「長月さん、申し訳ないけど今夜は僕と先約があるから郁香は君には付き合えないんだ。
それに、なんだか後ろの方に君のお祝いをしたい女性たちが待ってるみたいだよ。」


「ああ、あれは僕の同僚です。彼らは勝手についてきますから、ご心配なく。
伊佐木さんにはこれからいろいろとお世話になりますし、日をあらためてお家の方にでもご挨拶に伺ってよろしいでしょうか。」


「あ・・・私の家は。」


「郁香、いいんじゃないか。来られたらお茶でもお出ししてあげたらいいよ。」


「そ、そうですね。土曜日でしたら、上手く焼けるかわかりませんが、手作りクッキーとお茶を用意してささやかなお祝いをさせていただきますよ。
うちの家族も楽しめると思いますし・・・。」


「えっ、そんな歓迎をしていただけるんですか!
土曜ですね・・・ぜひ、伺います。ああ・・・楽しみだなぁ。」



上機嫌で同僚たちと出て行く長月を見て、彰登はクスクス笑っていた。


「あはははは。あいつ、土曜はサプライズだなぁ。
やはりここは、逆挨拶を直にいにしてもらうのが面白そうだ。」


「彰登さん、なんだかかわいそうじゃ・・・。」



「いいんだって。あいつ、パーティーのときから君に馴れ馴れしすぎる!
しっかり、あのときのパートナーが僕だと誤解もしているし、そのまま誤解してもらっておけばいいのさ。

直にいにもあいつが来る説明はしておこう。
あんなに下心見え見えなヤツには最初が肝心だからな。

それでなくても仕事では僕も含めて仲間になってしまうんだしな。
今、思えば・・・郁香が言ったとおり、女性デザイナーを増やしておいて採用する方がよかったかもしれないなぁ。

じゃ、そろそろ郁香・・・レストランに案内するから行こうよ。」


「ええ、ロッカールームで着替えてきますからロビーのところで。」


「了解。」

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