普通に輝くOL
あまりに郁香がそう言い続けたのと、芽衣子が気になる言葉を言ったことで、直登は決心したようにつぶやいた。


「通勤圏内でマンションを借りるよ。」


「私のために?」


「いいや、僕が郁香を囲うことにする。」


「えっ!!それは・・・同棲するってこと?」


「そうなるな。
さっきの芽衣子さんの言葉は聞き捨てならない。」


芽衣子は郁香が帰りたくないと言った後に、

「郁香は年の近い男はダメなのよ!トラウマなの、きいてあげて!お願い。」

と叫んだのだった。



「年の近い男とトラウマになってしまうようなことがあったのか?
だから彰登でも優登でも・・・それ以外の誰であっても嫌なのか?」


「ええ。小学校のときは、まだ軽いイジメくらいのことで割り切れていたの。

でも、中3の修学旅行で、私は隣のクラスの男子5人が煙草を吸ったり、女の先生の下着を隠し撮りしていたことを先生に密告したことの報復にあったの。」



「まさか・・・その5人に襲われたのか?」


「ええ。でも性行為はされなかったの。密告のあと気にしてくれていた先生がいて、発見が早かったんだけど・・・服は全部はぎとられて、上から押さえつけられて写真を撮られたわ。

そのときに彼らはみんな私にうわべだけの愛をささやいたわ。
好き、結婚しよう、愛してる・・・みんなそういえば何をやってもいいと思ってるみたいに。

その後は女子校へ通ってカウンセリングも受けてかなりよくなって・・・だから会社の面接だって合格までこぎつけたの。
いろんなことにだんだん自信を持てるようになってきたと思ったのに、優登さんの言葉が・・・きっと勇気をふりしぼって誠実に言ってくれたんだろうな・・・とはわかっていても、それでも。」



「なぁ・・・僕は大丈夫なのか?
僕の女性恐怖症が君とだと出てこない・・・といったような。」


「そうみたい。直にいの傍は怖くないどころか、落ち着くの。」


「嘘だな。さっきの君は落ち着きや冷静さなんて感じられなかった。
僕も驚いたけど、君は嫌がる素振りも見せなかっただろ?

それは、僕が自惚れてもいいことなんだろうか。」


「私だってよくわからない。・・・どうして抵抗しなかったのか・・・わからないの。ごめんなさい!」



「(うわっ、妙に素直でかわいすぎる!)よし、決めた。
駆け落ちしてとりあえず同棲してしまおう。

それしか邸を出る理由にならないしな。」


「ちょ、ちょっと・・・べつに同棲しなくても、私がもとの生活をすればいいだけなのに。」


「あれ、郁香らしくないなぁ。いつもなら何かやるとしたらその後どうなるかとか、関連してこれをした方がいいとかよく言ってるじゃないか。

今回は目先のことでいっぱいなのか?」


「えっ?元の生活しちゃいけないの?」


「あのなあ・・・君はひとりぼっちの伊佐木郁香じゃないんだよ。
楢崎の財産を山積みにした資産家の楢崎郁香だ。

独身でセキュリティも完全とは言い難いアパート暮らしだったら、毎日お金目当ての知らない親戚や彼氏もどきが大量になだれ込んでくるとは考えないのかい?」


「あ・・・とてつもない物はよくわかんないし、弁護士さん任せだから私・・・。」


「あらぁ・・・それはいけないなぁ。わからないからって放っておいてはいけないものがいっぱいあるんだ。
そういう相談を邸にいるときも、きいたことなかったよな。
あ、言っておくけど、僕は君の財産は知っていたけど興味はないぞ。

前もいったけど、保養所とか会社のためになりそうなものは、正式に買い取るつもりだから。
僕と僕の選んだ仲間とみんなでがっつり稼いで、ほしいものは手に入れるつもりだ。」


「だったら、私の住むとこなんて私が用意しなきゃ、直登さんの損失になるでしょ?」


「頑固な娘だな。そんなに払いたかったら半分ずつお金を出すのでどうだ?
君にまるごと出してもらったら、何かあるたびに出て行けって言われるのは嫌だしね。」


「そんな鬼みたいなことしないわ!
会社のことも兄弟のこともあの邸のことも直登さんにのしかかってくるのに、この上まだ私と同棲だなんてことになったら、また苦労をいっぱいしょいこむわ。

そんな迷惑な私なんかみなくたっていいと思う。
お金出せばセキュリティやガードマンを雇えるんだろうし。」


「だめだ!住んでるのが君だけなんてわかったら、ガードマンの中にもよからぬ考えを起こすやつもいるかもしれないだろ。

絶対、男がそばにいないと危なすぎる。
おじいさんの邸は弟たちに任せて家賃は僕の分も今までどおり徴収すればいいし、僕は基本的に激務で家にも帰れない状況だということにすれば、君と住んでることもごまかせる。

だから、いっしょに住もう。」

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