普通に輝くOL
郁香は直登が会っていた3世帯の老人たちに接触してみたのだった。
直登よりは愛想よく迎えられるくらいは期待していたが、それは郁香の浅はかな考えだった。
「ちゃんと家賃を払って住んでいるんだし、黙って生活させてくれ。
修繕云々で出ていかせたかったら、せめて今の家賃くらいで入居できる家と俺たちが離れ離れにならないようなことを考えてくれ!」
残った4人のお年寄りがみんな、それを必死に訴えてきていた。
(なんとかいい方法はないものかしら・・・。)
郁香が考えあぐねていると、1組の夫婦のおばあさんが声もあげずに涙だけぽろぽろと流していた。
「あ、あのどうなさったんですか?
ご気分でも悪いんですか?」
「ごめんなさいね・・・先日のおたくの社長さんの話といい、あなたの話といい理解はできているつもりなのよ。
危険な建物を放置して人を住まわせたらあなたたちが罪になってしまいますものね。
出て行けだけで放り出されても仕方のない私たちかもしれないのに、親身に考えてくださってうれしいんですけど、うちにはもう何もなくて。
老後の夢っていうんですかね、老夫婦で喫茶店でもしようとお金を貯めていたんです。
でも、3か月前に私の孫が入院して、手術を受けないと命にかかわる状態だったときに、おじいさんがお金を使うようにすすめてくれてお店の資金をくずしたんです。
そしたらおじいさんの妹も交通事故に遭って、リハビリのできる施設に入るのにお金が入用になってしまってね。
お金はどんどんなくなってしまいました。」
「そうだったんですか。
で・・・おふたりはお店をするのに資格とかもっておられたんですか?」
「私たちは栄養士と調理師の免許はあるんです。
といっても、主人は洋食屋さんに雇われていて、私は小学校の給食のおばさんでしたけどね。
だから、自分たちでお店があれば・・・なんて思ったんですけど。
考えが甘かったんですね。」
「もしかして、他の方も何か仕事のできる方おられますか?」
「あ、わしは、造園業を実家でずっとおやじとやっていたんだ。
山に近い小さな町で働いてたんだがね、災害で実家と庭と仕事場が地すべりと土石流でもっていかれちまって。
結局、都会に出てきた。
出てきたはいいが・・・もう日雇いみたいな仕事しか見つからなくてな。」
「私はこの通り、もう足が不自由で生活も介護支援を受けている状況ですけど、座ってできる作業ではパッチワークや手芸には自信があるんです。
若いときにはね、そういうお店で働いてお客様に教えていたこともあるんですけどね。
でも、毎日たくさん縫っていないとだんだん手が遅くなってきたわ。だめね。」
そこまで話をきいたところで、郁香は「あっ!」と声をあげた。
「皆さん・・・ご相談したいことがあります。」
夜になって、郁香は直登に電話をかけた。
「どうした?何か困ったことになったのか・・・。
まだ、帰ってきてないって藤子さんが言ってきたから心配してたんだぞ。」
「ごめんなさい。
仕事のメドがたちそうだと思ったら、ちょっとがんばっちゃって。」
「メドって?あの4人がいい返事をくれたのかい?」
「そうよ。みんな、私が雇うことにしたの。」
「雇うだって?
郁香は何か経営してたのか?僕に隠し事してたってことか?」
「そんな隠すものないわ。
テニスコート付きのあそこよ。
で、ものは相談・・・直郁すずらん荘を早急に買い上げてくれませんか?
保養所や研修所にしてしまえば、人の出入りも多くて仕事になります。」
「そうか・・・!あの人たちに仕事をさせるつもりなんだな。
でも、やれる仕事なんてあるのか?」
「はい。造園業をしておられたおじいさんは、お庭の担当をしてもらえばいいし、調理師のおふたりには調理場でお食事を作ってもらえればいいですし、足の悪いおばあさんだって、手はとても器用でパッチワークやキルト、刺繍などとてもきれいなインテリアの飾りとか実用品とか作ってくれます。
ね、見事に役割分担できてるメンバーでしょう?」
「なるほど・・・昔取った杵柄だな。
わかった。直郁すずらん荘を買おう。
でさ・・・名前をちょっと変えるのはダメかな。
会社で使用するなら、ちょっと・・・はずかしいかな・・・なんて。」
「えっ・・・あっ・・・そうですね。
借りにつけてた名前なので、まずいですね。」
「すずらん荘だけ残して我が社の管理下とする。
それでいいんだな。」
「はい。おじいちゃんたちの給料は、そちらで用意しにくければ、一時的に私が用意してもいいですよ。」
「ああ、そのくらいは大丈夫だよ。
これで、古びたマンションをなんとかできる。
ありがとう、郁香。お疲れさま。
とりあえず、その話をつめるのに早く帰ってきてくれ。」
「はい。じゃ、タクシーですぐこっちを出ます。」
直登よりは愛想よく迎えられるくらいは期待していたが、それは郁香の浅はかな考えだった。
「ちゃんと家賃を払って住んでいるんだし、黙って生活させてくれ。
修繕云々で出ていかせたかったら、せめて今の家賃くらいで入居できる家と俺たちが離れ離れにならないようなことを考えてくれ!」
残った4人のお年寄りがみんな、それを必死に訴えてきていた。
(なんとかいい方法はないものかしら・・・。)
郁香が考えあぐねていると、1組の夫婦のおばあさんが声もあげずに涙だけぽろぽろと流していた。
「あ、あのどうなさったんですか?
ご気分でも悪いんですか?」
「ごめんなさいね・・・先日のおたくの社長さんの話といい、あなたの話といい理解はできているつもりなのよ。
危険な建物を放置して人を住まわせたらあなたたちが罪になってしまいますものね。
出て行けだけで放り出されても仕方のない私たちかもしれないのに、親身に考えてくださってうれしいんですけど、うちにはもう何もなくて。
老後の夢っていうんですかね、老夫婦で喫茶店でもしようとお金を貯めていたんです。
でも、3か月前に私の孫が入院して、手術を受けないと命にかかわる状態だったときに、おじいさんがお金を使うようにすすめてくれてお店の資金をくずしたんです。
そしたらおじいさんの妹も交通事故に遭って、リハビリのできる施設に入るのにお金が入用になってしまってね。
お金はどんどんなくなってしまいました。」
「そうだったんですか。
で・・・おふたりはお店をするのに資格とかもっておられたんですか?」
「私たちは栄養士と調理師の免許はあるんです。
といっても、主人は洋食屋さんに雇われていて、私は小学校の給食のおばさんでしたけどね。
だから、自分たちでお店があれば・・・なんて思ったんですけど。
考えが甘かったんですね。」
「もしかして、他の方も何か仕事のできる方おられますか?」
「あ、わしは、造園業を実家でずっとおやじとやっていたんだ。
山に近い小さな町で働いてたんだがね、災害で実家と庭と仕事場が地すべりと土石流でもっていかれちまって。
結局、都会に出てきた。
出てきたはいいが・・・もう日雇いみたいな仕事しか見つからなくてな。」
「私はこの通り、もう足が不自由で生活も介護支援を受けている状況ですけど、座ってできる作業ではパッチワークや手芸には自信があるんです。
若いときにはね、そういうお店で働いてお客様に教えていたこともあるんですけどね。
でも、毎日たくさん縫っていないとだんだん手が遅くなってきたわ。だめね。」
そこまで話をきいたところで、郁香は「あっ!」と声をあげた。
「皆さん・・・ご相談したいことがあります。」
夜になって、郁香は直登に電話をかけた。
「どうした?何か困ったことになったのか・・・。
まだ、帰ってきてないって藤子さんが言ってきたから心配してたんだぞ。」
「ごめんなさい。
仕事のメドがたちそうだと思ったら、ちょっとがんばっちゃって。」
「メドって?あの4人がいい返事をくれたのかい?」
「そうよ。みんな、私が雇うことにしたの。」
「雇うだって?
郁香は何か経営してたのか?僕に隠し事してたってことか?」
「そんな隠すものないわ。
テニスコート付きのあそこよ。
で、ものは相談・・・直郁すずらん荘を早急に買い上げてくれませんか?
保養所や研修所にしてしまえば、人の出入りも多くて仕事になります。」
「そうか・・・!あの人たちに仕事をさせるつもりなんだな。
でも、やれる仕事なんてあるのか?」
「はい。造園業をしておられたおじいさんは、お庭の担当をしてもらえばいいし、調理師のおふたりには調理場でお食事を作ってもらえればいいですし、足の悪いおばあさんだって、手はとても器用でパッチワークやキルト、刺繍などとてもきれいなインテリアの飾りとか実用品とか作ってくれます。
ね、見事に役割分担できてるメンバーでしょう?」
「なるほど・・・昔取った杵柄だな。
わかった。直郁すずらん荘を買おう。
でさ・・・名前をちょっと変えるのはダメかな。
会社で使用するなら、ちょっと・・・はずかしいかな・・・なんて。」
「えっ・・・あっ・・・そうですね。
借りにつけてた名前なので、まずいですね。」
「すずらん荘だけ残して我が社の管理下とする。
それでいいんだな。」
「はい。おじいちゃんたちの給料は、そちらで用意しにくければ、一時的に私が用意してもいいですよ。」
「ああ、そのくらいは大丈夫だよ。
これで、古びたマンションをなんとかできる。
ありがとう、郁香。お疲れさま。
とりあえず、その話をつめるのに早く帰ってきてくれ。」
「はい。じゃ、タクシーですぐこっちを出ます。」