普通に輝くOL
それから1週間ほどたって碓井が1か月の休暇を願い出た。


「じつは、妻が病気の母親の介護疲れから過労で倒れてしまったんです。」


「介護って・・・いつから?
そんな話きいたことなかったぞ。」


「ええ、家の階段から落ちてその時は打撲だけだったそうです。
しかし、ずっと頭の中に少しずつ出血していて・・・先日救急車で運ばれて。

入院して命には別条はないんですが、施設を利用するほどもないかと微妙な状態で、現在はリハビリをしながら自宅療養なんです。」


「そっか、そんな事情が。
それで郁香を僕の秘書にしたんだね。」


「ええ。確かに彼女は秘書としては駆け出しですが、社長をいちばん裏切らない仕事をすると信じています。」


「へぇ、仕事にきびしい君からそんな信頼を得たわけだ。」


「初めはちょっと賭けみたいな考えもないとはいえませんが、私のアシスタントをこなしている様子を見てきて洗練されれば私と同格程度にはやっていけると思いました。」



「わはは・・・同格ね。いいよ、碓井はそうでなくっちゃ。
困ったことが出たら電話すると思うけど、1か月といわず必要なだけ出社しなくてもかまわないからな。

あ、勘違いするなよ。碓井ほどの優秀な秘書は僕のそばにいてくれた方がいいに決まってるが、家族は大事で社員と家族のための会社だからな。」


「お優しい言葉はうれしいですが、私のいない間に広登さんに実権を握られませんように。
彼は実直な仕事をしていますが、ときどき非情すぎるところがありますからね。

人の世話が多い我が社としましては、温かさがウリですのでね、私はあなたの方がずっと向いていると思ったんですよ。」


「そっか。だけどいつも言うように、僕は広登が社長をしてくれたなら、それはそれでありがたいと思うんだ。
重責ってのはしんどいからね。
じゃ、そろそろ僕は君の選んだ未来有望な秘書と打ち合わせをしなきゃいけないので・・・。


「お疲れ様です。引き継ぎや連絡を済ませ次第、帰宅します。
社長、ありがとうございました。」


直登は笑顔で小さく手を振ると、駐車場へと向かった。



「すまん、待たせたかな。」


「いいえ、今来たところです。
碓井さんとお話していたんでしょ。
さっきメールをいただきました。」


「とことん、きっちり仕事していくな・・・あいつ。
まぁいいや。それより、腹が減ってさ。
何か食べながら打ち合わせをしよう。」


「お昼の時間なかったんですか?」


「郁香を食べる時間なら無理にでも作るけど、ちょっとね~」


「な、・・・社長・・・!!
そんなの、聞こえちゃいます。」



「あはっはは。このネタとベッドでは郁香から主導権がとれるな。」


「なっ!直登さん・・・やめてったら・・・。」


「だってさ、夜の郁香はほんとにきれいで、かわいくて僕を夢中にさせるだろ。
思い出しただけで、今だって僕は・・・。いっ、痛い!いいい、いたっ!」


直登は郁香に下唇を思いっきりひっぱられた。


「この口は最低ね!仕事はひきしめてやってください。」


「は、はい。そういたします。・・・。イテテ・・・。」




直登は遅い昼食をとりながら、郁香に新たな仕事の相談を始めた。

再開発で潰したマンションの跡地に私立学校の寮が建設される話だった。


「学生寮だからね、個別に管理して家賃をとるのとは違うんだ。
お金の面は学校と銀行でやってくれるが、管理はうちが請け負う。」


「それって数が多いんですか?
1つだったら学校ですべてやる方がいいでしょうに。」


「うん、数がねけっこう多い。
学校の理事長が3つの学校の理事長だの校長を兼任していてね、巨大ホテルが3件分くらいの敷地を押さえたって話だ。
だから、あちらさんもややこしいから、うちに面倒事を投げてきたというわけだ。」


「なるほど、人件費の方がバカになりませんからね。」


「で、しばらく学校との行き来が続きそうだ。
僕はともかく、君はとくに気をつけてほしい。」


「はぁ?何に気をつけるんです?」


「巨大男子校なんだ。なんていうか・・・その、血気盛んな男どもばかりだろ。
大人の女っていうだけできっと興味津々でだな・・・。
のぞきにきたりとかするんじゃないかとね。

それと経理担当者とかいうヤツが、彰登の友達らしいんでな。」


「彰登さんのお友達・・・。それが何か問題でも?」


「いや・・・気にしないならべつにかまわないから。」

(あ~~下手に言わないにこしたことはないよな。
彰登よりイケメンでやり手で彰登が悔しがった相手なんてな。
それに、けっこうプレイボーイだって調べはついてるしなぁ。

こういうときこそ、碓井の出番なのに・・・あいつはーーー!)


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