普通に輝くOL
結婚式のことで花司邸に直登と郁香が訪ねてみると、清登と藤子以外の人物が不機嫌だった。

「同棲までは確かに認めた。
直にいはアレルギーがあるし、男と女の関係って感じには到底見えなかったからな。

だけど、結婚なんてどういうことだ?
直にいがとうとう郁香に手を出しちまったってことなのか?」


「そ、そんなことありません!
あくまでも、仕事上の困ったヤツのせいです。」


「困ったヤツ?」


彰登の質問に郁香は堂原学院の香西や男子校の仕事が大きく関わることがきっかけで香西に執拗につきまとわれたり、誘いを受けたことを説明した。


「そんなの社長秘書を辞めて、別部署で働けば解決するじゃないか。
優登が臨時秘書になるとも広にいから聞いてたけどなぁ。」


「それがな・・・だめなんだ。
あいつとあいつの部下の男どもは、郁香にターゲットをしぼってしまった。
いまさら別部署に行ったとしても、会社に押しかけてきて郁香に会いにくるだろう。」


「なんで郁香なんだよ。うちの会社の女子社員で郁香くらいの美人はけっこういるだろ。
受付とか経理とか総務にもかわいいコはいるよ。」


「優登・・・おまえはわかってない。」


「なっ、なんだよ。俺のどこがわかってないって・・・失礼だぞ!」



「見た目じゃないんだ。郁香と話をしてあいつはわかってるんだ。
郁香の値打ちをな・・・。だから食らいついてきた。

守る方法は結婚でもしてしまうしかないんだ。
香西は他人のモノには手を出さない紳士と自分で吹聴しているヤツだからな。」


「厄介な男だなぁ。
それにしても、だからって俺たちに何の相談もなく、いきなり直にいと郁香で結婚なんて決めてしまってひどいなぁ。
俺たちも候補くらいに入りたかったよ。」



「そうだ!婚約撤回してくれ!」


「あの・・・堂原学院側から見たら直登さんの奥さんでいるのが、いちばん都合がいいの。
妻だから寄り添って守ってもらう方が、誰がきいても正当でしょ。」


「郁香・・・おまえ・・・」


「心配してもらってるのにごめんなさい。
私はお仕事がしたいの。
余計なことや感情で仕事ができなくされるのが嫌だから。
わかってください。」


「郁香がそういうなら、仕方ねえな。
まぁ、結婚しててもハプニングで夫婦仲が風前のともしびってヤツもうちにいるから、夫婦って言葉も安いよな。」


「こらぁ!僕ら夫婦は誤解がとければちゃんと元通りだ。
僕は詩織を裏切ってはいない。
今は、2人にとって試練の時間を神から与えられただけなんだ!」


「ぉおお・・・神様ときてしまったか。
そういえば、あの女最近よく出かけてるみたいだな。
つわりとかでしんどい時期じゃないのかな?」


「買い物とかじゃないのか?」


「違う。帰ってきたときに荷物らしいものも持ってないんだから。」


「どういうことだ?」


「前に携帯で誰かとしゃべってた。たぶん相手は男。」


「なんだって!清登、それはほんとか?」


「ああ、俺がバイトからもどってきて、たまたま聞いてしまったら、そのあとに俺の存在に気付いてすごく気まずい顔してたからな。」


「これは調べてみなきゃいけないな。
そろそろ、妊娠中の判定も出る頃だろうしな。」



その日は夜になって小夜も家にもどったので兄弟全員がそろっての夕飯となり、藤子は喜んで支度にかかった。


「小夜、あいかわらず突然だなぁ。」


「何よ、ここは実家も同然でしょ。
まさか直にいが郁香さんと結婚するなんてジョークだと思ってたけど、ほんとだったのにはびっくりしたけどね。
でも、直にいはうれしそうだから私はお祝いするわ。」


「そっか、ありがとな。
小夜は最近はモデルやメイクの先生をしてるってきいたけど・・・。」


「ええ、私もいい年だからね、そろそろ第2の人生もかじっていいかなぁってね。」


「じゃ、ここにもどってくるのか?」


「ううん、ときどきかな。私も先月から同棲してるしね。」



「えっ!!同棲だってぇーーーーーーーーーー!!!!???」


「そうよ、事務所の社長とね・・・なんかそういうことになっちゃって。
あ、心配しないで。
1年続いてうまくいきそうなら、ちゃんと結婚するから。
そこはね、郁香さんと直にいを見習って、しっかりと取り決めしたの。」


「でもなぁ・・・事務所の社長って一回り以上年上だろ。」


「彼はバツイチだけど、前の奥さんが男作って出ていったから彼自身はいたって真面目な仕事人間なのよ。
前は仕事人間すぎてだめだったって反省もしてるの。
私とは温かい家庭を築きたいって言ってたわ。
だから、1年とにかく私たちを見て。納得がいくはずだから。」


「そこまでいうなら・・・わかったというしかないだろう。
がんばれよ。」


「うん、ありがとう直にい。
直にいならわかってくれると思ってたわ。」


兄弟集まった宴は夜10時を過ぎるまで続いていたが、自室で泣いている女がいた。

高下美代子である。


「私もああいう中に入れたら、どんなに幸せなんだろう・・・。
でも、もう・・・もう・・・限界だわ。
私はあるべきところにもどらなくてはいけない・・・。うう。」
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