普通に輝くOL
郁香にはかろうじて仕事の忙しさだけが、自分の平常心を保ってくれる日々に思えた。
だが、しばらくしてその多忙さまでも脅かせるような予定が入ってしまった。
碓井が秘書を朝から集めてミーティングをしていて、聞こえてきた話題に郁香は思わず立ち止まった。
大手の顧客3件から社長や重役の娘を直登の花嫁にどうかという縁談話が突きつけられてきたのだ。
碓井は早速お見合いのセッティングにかかっているという。
「碓井さん、そんな話、私は何もきいていません。」
「君には知らせない方がいいと副社長やご兄弟と相談の上、話をすすめています。
もちろん本人が誰も気に入らなければ、今までどおり・・・いや、取引先が減るだけですがね。」
「そういうことですか・・・。わかりました。」
お昼になって郁香は久しぶりに社員食堂へと向かったが、入口前に来るとまた来た道を戻り始めた。
(やっぱり誰かと話をしたくない気分・・・)
「郁香!どうした、財布でも忘れてたのか?
久しぶりの日替わり定食だ。俺がおごってやるぞ!」
「あ・・・優登。ごめんなさい、やっぱり食堂やめておくわ。」
「待てって。直にいのこと何か聞きたいんじゃないのか?
見合いの話のこと、気に入らないんだろ。」
「私が気に入るも気に入らないも・・・私にはどうしようもないでしょ。
お断りしたら取引先が確実に減るのよ。
それも柱になってる仕事ばかりがみんななくなっちゃうんだろうし。
優登は直登さんがいちばん幸せになりそうな人を推薦してあげればいいんじゃない?」
「そうだな。それは名案だ。
それでうまくいけば、俺は堂々とおまえにプロポーズできる!」
「な、何いってるのよ。
私は年齢が近い、高飛車男はタイプじゃないの。」
「俺だって5年もたてばイヤでも落ち着くさ。
それまで時間かけても、俺は大丈夫なんだ。
そりゃ、郁香との年齢差を広げろなんてできっこないけど・・・だけど、俺も直にいに負けないくらいスキルアップを積んでいくことはできる。
直にい以上の努力は俺にはまだできる時間がある。
例えば・・・直にいが今度のお見合いのうちの誰かと結婚してしまって、君がこの会社を辞めてしまったとしてもだ。
僕は君と付き合える位置にいるってことを忘れないでほしいんだ。」
「そんなこと言われても・・・」
「今はそんな気になれないの~~~か?
まぁ意識されすぎてもこっちもつきあいにくいけどな。
それよりさ、定食おごるからしっかり食え。
一度原点にもどってみないか?
おまえが自分の力だけで入社したときみたいにさ。
誰の孫だ云々・・・ってなかった頃の郁香と俺の付き合いでさ。」
「優登はそれでいいの?」
「今はね。俺は直にいや他の兄弟たちのことなんてどうでもいい。
少なくともお昼におまえと食堂でしゃべってる時間は、俺の大切な癒しの時間であり楽しみなんだからな。
それ以上に理由はいらないよな。」
「優登・・・。うん、じゃ優登のおごりでがっつり食べるぞぉ!!!」
「ええっ!俺のおごりになっちゃうの?」
「言いだしたのは優登でしょ。それとも武士はうそばっかなの?」
「いや、二言はない!言いだしたのは俺だ。好きなだけ食ってくれ。
定食とデザートまでだがな。ぷっ・・・くくく。」
「あははは。やっぱり優登はせこいねっ。よぉ~~し2人前ずつ食べるから。」
「はぁ・・・マジか?」
結局、郁香は優登のおごりで定食とデザートを2人前ずつすごい勢いで食べてしまい、優登はため息まじりに総務課へもどっていったのだった。
「ふぅ・・・お腹いっぱい。
優登にはとんだとばっちりだったかもしれないわね。うふふ。
でも、なんかすっきりしたかなぁ。
お見合いとか取引先とか・・・もうどうでもいいかなって思う。
直登さんが選んだ人がやってくれば、家を買い取ってもらえばいいだけだもの。
今の私には財産もあるし、移動なんて簡単だものね。」
(そうだ、久しぶりに妃の家に寄ってみよう。
この前、生前の母を知る使用人の人たちにも会えたから、もっと話をきいてみたいわ。
えと、あの邸の管理をしているのはお母さんの夫の連れ子に当たる人だったわね。
連絡をとってみよう。)
郁香が妃家の元主の連れ子にあたる女性に連絡してみると、使用人に話をするのも1泊するのもかまわないと快く許可してくれた。
突然の邸の管理にとまどったらしいが、妃孝彦がいずれもどってきたときまでの管理ということで、自分が権力をふるおうとは思わないという説明だった。
郁香が妃邸にいくと、母親直属のメイドをしていたという女性がいて、郁香を優しく迎えてくれた。
「唯香様によく似ておられて美人さんね。」
「そんな・・・私はあんな絵の母みたいな表情はしたことはありません。」
「あんな表情は心から愛する人がいなければできるものでもありませんよ。」
「愛する人?っていうことは・・・夫である妃氏を母は愛していたっていうことなんですね。」
「ええ、いいご夫婦でした。
後妻ってことでね、周りはよく思わない人たちが多かったですけど、前妻を病気で失ってしまった旦那様にとって唯香様はじつの娘さんよりも大切な存在だったと思います。
実の娘さんって今ここの管理をされてる方?」
「ええ。あの方も子どもの頃はさびしい人生を送られていました。
でも、今は公務員のご主人と普通の生活を楽しんでおられるでしょう。
だから、この邸には来られません。管理という形で預かっておられるだけです。」
「そうなんですか。」
だが、しばらくしてその多忙さまでも脅かせるような予定が入ってしまった。
碓井が秘書を朝から集めてミーティングをしていて、聞こえてきた話題に郁香は思わず立ち止まった。
大手の顧客3件から社長や重役の娘を直登の花嫁にどうかという縁談話が突きつけられてきたのだ。
碓井は早速お見合いのセッティングにかかっているという。
「碓井さん、そんな話、私は何もきいていません。」
「君には知らせない方がいいと副社長やご兄弟と相談の上、話をすすめています。
もちろん本人が誰も気に入らなければ、今までどおり・・・いや、取引先が減るだけですがね。」
「そういうことですか・・・。わかりました。」
お昼になって郁香は久しぶりに社員食堂へと向かったが、入口前に来るとまた来た道を戻り始めた。
(やっぱり誰かと話をしたくない気分・・・)
「郁香!どうした、財布でも忘れてたのか?
久しぶりの日替わり定食だ。俺がおごってやるぞ!」
「あ・・・優登。ごめんなさい、やっぱり食堂やめておくわ。」
「待てって。直にいのこと何か聞きたいんじゃないのか?
見合いの話のこと、気に入らないんだろ。」
「私が気に入るも気に入らないも・・・私にはどうしようもないでしょ。
お断りしたら取引先が確実に減るのよ。
それも柱になってる仕事ばかりがみんななくなっちゃうんだろうし。
優登は直登さんがいちばん幸せになりそうな人を推薦してあげればいいんじゃない?」
「そうだな。それは名案だ。
それでうまくいけば、俺は堂々とおまえにプロポーズできる!」
「な、何いってるのよ。
私は年齢が近い、高飛車男はタイプじゃないの。」
「俺だって5年もたてばイヤでも落ち着くさ。
それまで時間かけても、俺は大丈夫なんだ。
そりゃ、郁香との年齢差を広げろなんてできっこないけど・・・だけど、俺も直にいに負けないくらいスキルアップを積んでいくことはできる。
直にい以上の努力は俺にはまだできる時間がある。
例えば・・・直にいが今度のお見合いのうちの誰かと結婚してしまって、君がこの会社を辞めてしまったとしてもだ。
僕は君と付き合える位置にいるってことを忘れないでほしいんだ。」
「そんなこと言われても・・・」
「今はそんな気になれないの~~~か?
まぁ意識されすぎてもこっちもつきあいにくいけどな。
それよりさ、定食おごるからしっかり食え。
一度原点にもどってみないか?
おまえが自分の力だけで入社したときみたいにさ。
誰の孫だ云々・・・ってなかった頃の郁香と俺の付き合いでさ。」
「優登はそれでいいの?」
「今はね。俺は直にいや他の兄弟たちのことなんてどうでもいい。
少なくともお昼におまえと食堂でしゃべってる時間は、俺の大切な癒しの時間であり楽しみなんだからな。
それ以上に理由はいらないよな。」
「優登・・・。うん、じゃ優登のおごりでがっつり食べるぞぉ!!!」
「ええっ!俺のおごりになっちゃうの?」
「言いだしたのは優登でしょ。それとも武士はうそばっかなの?」
「いや、二言はない!言いだしたのは俺だ。好きなだけ食ってくれ。
定食とデザートまでだがな。ぷっ・・・くくく。」
「あははは。やっぱり優登はせこいねっ。よぉ~~し2人前ずつ食べるから。」
「はぁ・・・マジか?」
結局、郁香は優登のおごりで定食とデザートを2人前ずつすごい勢いで食べてしまい、優登はため息まじりに総務課へもどっていったのだった。
「ふぅ・・・お腹いっぱい。
優登にはとんだとばっちりだったかもしれないわね。うふふ。
でも、なんかすっきりしたかなぁ。
お見合いとか取引先とか・・・もうどうでもいいかなって思う。
直登さんが選んだ人がやってくれば、家を買い取ってもらえばいいだけだもの。
今の私には財産もあるし、移動なんて簡単だものね。」
(そうだ、久しぶりに妃の家に寄ってみよう。
この前、生前の母を知る使用人の人たちにも会えたから、もっと話をきいてみたいわ。
えと、あの邸の管理をしているのはお母さんの夫の連れ子に当たる人だったわね。
連絡をとってみよう。)
郁香が妃家の元主の連れ子にあたる女性に連絡してみると、使用人に話をするのも1泊するのもかまわないと快く許可してくれた。
突然の邸の管理にとまどったらしいが、妃孝彦がいずれもどってきたときまでの管理ということで、自分が権力をふるおうとは思わないという説明だった。
郁香が妃邸にいくと、母親直属のメイドをしていたという女性がいて、郁香を優しく迎えてくれた。
「唯香様によく似ておられて美人さんね。」
「そんな・・・私はあんな絵の母みたいな表情はしたことはありません。」
「あんな表情は心から愛する人がいなければできるものでもありませんよ。」
「愛する人?っていうことは・・・夫である妃氏を母は愛していたっていうことなんですね。」
「ええ、いいご夫婦でした。
後妻ってことでね、周りはよく思わない人たちが多かったですけど、前妻を病気で失ってしまった旦那様にとって唯香様はじつの娘さんよりも大切な存在だったと思います。
実の娘さんって今ここの管理をされてる方?」
「ええ。あの方も子どもの頃はさびしい人生を送られていました。
でも、今は公務員のご主人と普通の生活を楽しんでおられるでしょう。
だから、この邸には来られません。管理という形で預かっておられるだけです。」
「そうなんですか。」