普通に輝くOL
直登は少し驚いていた。
郁香は不服そうな顔をするか、それみたことか!のような皮肉めいた表情をするかと想像していたからだった。
とても物静かで落ち着いているように思える。
それは内心の腹立ちをわざとごまかすためのようにも思えないほどに。
少し、不満気な表情で郁香に話の続きをしてきかせた。
「なんていうか・・・とくに嫌な感じの印象の娘はいないし、令嬢揃いだからかお金目当てみたいな娘もいないようだ。
だからわからない・・・。不謹慎な発言になるのだろうけど、どの娘と結婚しても大丈夫な気がするんだ。
それはおかしいと思うかい?」
「私は本当の結婚をしたことがないから、わかりません。
だけど、どの人でもいいとは思えません。
私がもしお見合いをしたとしたら、結婚っていう未来を考えるときに納得いくまで相手を知りたいと思うし、会話をたくさん楽しんで、恋愛みたいに私を絶対ほしいと思うまででなくても、2人でいっしょに努力していきたいって思える人を選ぶと思うの。」
「そうか・・・。いっしょに努力して・・・そうだな。」
「君がそうやって僕に話をしてくれる状況にあるなら、知る努力を先にやるべきだな。
僕は、早く決めてしまわないと、君が不愉快になってしまうんじゃないかと気にしてた。」
「私のことなんか気にしなくていいのに。
私は会社の1従業員でしかないんだもん。」
「それは違う!」
「えっ!?」
「君は、経営者だと言ってもいい立場なんだから!
楢司は君のご先祖とうちの先祖とがおこした会社だ。
君が僕のために会社を差し出してくれたから、僕は社長の顔をしていられる。
だから、1従業員でしかないなんて思わないでほしい。」
「でも、面接したのは直登さんじゃないですか。」
「ああ・・・そのときは経営のことなんて考えてなかった。
この娘が試験に受かってくれたらなぁとしか思えなかった・・・。」
「そういってもらえたら十分よ。
私に何も遠慮しなくていいから、がんばって。」
「郁香・・・。それはそうと本当のお母さんのことは何かわかったの?」
「ええ、未成年で私を産んで里子に出したの。
根っからのお嬢様だったの。
何もできない、してあげられない悲しさに自分の結婚は長い間考えられなかったみたい。
妃家へ後妻として入ったときも周りの言いなりで、目に光がなかったんですって。」
「気の毒に・・・。」
「だけどそうでもなかったのよ。
後妻にした妃家のご主人は孝彦さんを養子にもらったことでもわかるけど、心の広い方だったみたい。
何もわからなかった母に、自らいろんなことを教えたんですって。
朝ごはんまでご自分で用意して、母に学ばせながら楽しそうにしていたって古株のメイドさんが話してくれたの。
そんな母の努力する姿を見た孝彦さんは母に憧れてしまったんだと思うの。」
「年齢差もあったときくし、本当にお互い努力して歩み寄ったんだろうね。」
「ええ。努力し合う姿がとても2人にとって楽しい時間で、充実した日々だったんだと思うわ。
そんなお話をきいたら、私も少し元気が出たかも・・・ね。」
「そうか。君はもう僕がそばにいなくても、希望をもって生きていけるんだね。」
「え・・・ええ。きっとそう。」
「じゃ、明日も早いし忙しいから寝ることにするよ。」
「おやすみなさい・・・。」
「おやすみ。」
郁香は足早に自室のベッドに飛び込むと、声は出ないのに涙だけがどんどん流れていた。
「私の希望なんて・・・あるわけない。
私もいっしょに歩み寄る努力をしたい。
だけど・・・歩み寄ろうとしたら傷つけてしまう・・・。
どうしようもならないことなんだもの。
そろそろ、ここを出ることを考えなきゃいけないわ。」
翌日、郁香は高谷設計の長月静留を訪ねていた。
広報の担当だったときは長月が選ばれるまでは見届けたが、その後の長月の仕事は見ることができなかったので女子寮のリビングのことなどが気がかりだったのである。
「お久しぶりですね。まさかここまで訪ねてくださるとは思ってなかったからびっくりです!」
「突然おしかけてごめんなさい。
私が急に秘書課へ移動になってしまってから、デザインの仕事が気になってて。
好奇心いっぱいでリビングが見たくてね・・・。
もうできてるんでしょ?」
「ええ。女性にはとてもウケがよくて、反響があったのでうれしかったんです。
よかったらこれから見にいきませんか?」
「いいんですか?お時間さいてしまって・・・」
「大丈夫です。かなり休暇をとってなかったですからね。あははは。
さあ、ご案内しますから車に乗ってください。」
郁香は女子寮のリビングを見て、声が最初でなかった。
「なんて・・・いい仕上がりなの。かわいいし、子どもっぽくなくて。
上品だし、未来が明るく感じるくらいの生命力も持ってる空間になってる。」
「そうですか、そんなにほめていただいて、とてもうれしいです。
だけど・・・そんなことをいうためだけに来られたんじゃないですよね。」
「えっ・・・べつに他に何もないですよ。
どうしてそう思うんですか?」
「あなたが秘書課の人だから。」
郁香は不服そうな顔をするか、それみたことか!のような皮肉めいた表情をするかと想像していたからだった。
とても物静かで落ち着いているように思える。
それは内心の腹立ちをわざとごまかすためのようにも思えないほどに。
少し、不満気な表情で郁香に話の続きをしてきかせた。
「なんていうか・・・とくに嫌な感じの印象の娘はいないし、令嬢揃いだからかお金目当てみたいな娘もいないようだ。
だからわからない・・・。不謹慎な発言になるのだろうけど、どの娘と結婚しても大丈夫な気がするんだ。
それはおかしいと思うかい?」
「私は本当の結婚をしたことがないから、わかりません。
だけど、どの人でもいいとは思えません。
私がもしお見合いをしたとしたら、結婚っていう未来を考えるときに納得いくまで相手を知りたいと思うし、会話をたくさん楽しんで、恋愛みたいに私を絶対ほしいと思うまででなくても、2人でいっしょに努力していきたいって思える人を選ぶと思うの。」
「そうか・・・。いっしょに努力して・・・そうだな。」
「君がそうやって僕に話をしてくれる状況にあるなら、知る努力を先にやるべきだな。
僕は、早く決めてしまわないと、君が不愉快になってしまうんじゃないかと気にしてた。」
「私のことなんか気にしなくていいのに。
私は会社の1従業員でしかないんだもん。」
「それは違う!」
「えっ!?」
「君は、経営者だと言ってもいい立場なんだから!
楢司は君のご先祖とうちの先祖とがおこした会社だ。
君が僕のために会社を差し出してくれたから、僕は社長の顔をしていられる。
だから、1従業員でしかないなんて思わないでほしい。」
「でも、面接したのは直登さんじゃないですか。」
「ああ・・・そのときは経営のことなんて考えてなかった。
この娘が試験に受かってくれたらなぁとしか思えなかった・・・。」
「そういってもらえたら十分よ。
私に何も遠慮しなくていいから、がんばって。」
「郁香・・・。それはそうと本当のお母さんのことは何かわかったの?」
「ええ、未成年で私を産んで里子に出したの。
根っからのお嬢様だったの。
何もできない、してあげられない悲しさに自分の結婚は長い間考えられなかったみたい。
妃家へ後妻として入ったときも周りの言いなりで、目に光がなかったんですって。」
「気の毒に・・・。」
「だけどそうでもなかったのよ。
後妻にした妃家のご主人は孝彦さんを養子にもらったことでもわかるけど、心の広い方だったみたい。
何もわからなかった母に、自らいろんなことを教えたんですって。
朝ごはんまでご自分で用意して、母に学ばせながら楽しそうにしていたって古株のメイドさんが話してくれたの。
そんな母の努力する姿を見た孝彦さんは母に憧れてしまったんだと思うの。」
「年齢差もあったときくし、本当にお互い努力して歩み寄ったんだろうね。」
「ええ。努力し合う姿がとても2人にとって楽しい時間で、充実した日々だったんだと思うわ。
そんなお話をきいたら、私も少し元気が出たかも・・・ね。」
「そうか。君はもう僕がそばにいなくても、希望をもって生きていけるんだね。」
「え・・・ええ。きっとそう。」
「じゃ、明日も早いし忙しいから寝ることにするよ。」
「おやすみなさい・・・。」
「おやすみ。」
郁香は足早に自室のベッドに飛び込むと、声は出ないのに涙だけがどんどん流れていた。
「私の希望なんて・・・あるわけない。
私もいっしょに歩み寄る努力をしたい。
だけど・・・歩み寄ろうとしたら傷つけてしまう・・・。
どうしようもならないことなんだもの。
そろそろ、ここを出ることを考えなきゃいけないわ。」
翌日、郁香は高谷設計の長月静留を訪ねていた。
広報の担当だったときは長月が選ばれるまでは見届けたが、その後の長月の仕事は見ることができなかったので女子寮のリビングのことなどが気がかりだったのである。
「お久しぶりですね。まさかここまで訪ねてくださるとは思ってなかったからびっくりです!」
「突然おしかけてごめんなさい。
私が急に秘書課へ移動になってしまってから、デザインの仕事が気になってて。
好奇心いっぱいでリビングが見たくてね・・・。
もうできてるんでしょ?」
「ええ。女性にはとてもウケがよくて、反響があったのでうれしかったんです。
よかったらこれから見にいきませんか?」
「いいんですか?お時間さいてしまって・・・」
「大丈夫です。かなり休暇をとってなかったですからね。あははは。
さあ、ご案内しますから車に乗ってください。」
郁香は女子寮のリビングを見て、声が最初でなかった。
「なんて・・・いい仕上がりなの。かわいいし、子どもっぽくなくて。
上品だし、未来が明るく感じるくらいの生命力も持ってる空間になってる。」
「そうですか、そんなにほめていただいて、とてもうれしいです。
だけど・・・そんなことをいうためだけに来られたんじゃないですよね。」
「えっ・・・べつに他に何もないですよ。
どうしてそう思うんですか?」
「あなたが秘書課の人だから。」