濃いラブコメ


それ以来、女装にはまった。


いろんな店を渡り歩き、姉へのプレゼントと嘘をついて、好みのブラウスやスカート、ワンピースなどを買い、自宅の部屋の天井裏に隠した。そして夜こっそりとそれを身につけ、鏡を見つめながら、うっとりと悦に入った。


ぼくの顔は、線が細く、色白で、目がぱっちりとしていて睫毛が長い。女装をすると、本物の可愛い女の子のように見えた。体型も小柄で、程良くスリムで、女装に向いていた。


はまった。自己陶酔。完全にはまった。もう、たまんないって感じ。


最初は部屋で着替えるだけで充分だったのだが、くりかえすうちにテンションがあがってしまい、中学の頃、女装姿で深夜こっそり家を出てみた。


世界の色が変わって見えた。


女の子の服を着ているというだけで、いつも歩いている道路、いつも通り過ぎる煙草屋や郵便局なんかがとても輝いて見えた。時折すれちがうひとの視線が新鮮だった。あきらかにぼくに、「女性を見る目」を向けていた。それがとてもうれしかった。体がぷるぷると震えた。女装大成功と叫んで、その場で万歳したくなるのを、必死で我慢した。


そうして、月に一度くらいのペースで、深夜徘徊していたのだが、高校二年生になる頃には、そのペースが週に一度になっていた。
楽しくってしょうがないのだ。


最近よく着ているのは、ゴスロリだ。ゴシックロリータ。西洋風の可愛らしいデザインの黒いドレス、黒いカチューシャ、黒いミニスカート、黒のニーソックスに黒のハイヒールを身につけ、黒いストレートな長髪のカツラをかぶり、黒いマスカラを瞼に塗る。


そうすることで、ぼくはどこか魔の雰囲気をまとった、少し妖しい女の子になる。


そんな姿のぼくが歩くことで、見慣れた町の風景が蠱惑な幻想に彩られるような気がした。



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