濃いラブコメ


着た。


もう、がまんができなかった。


ぼくはメイド服を受けとると、衝立に隠れて、猛烈な勢いで着替えた。ブラウスとスカートを身につけ、カチューシャを頭にのせる。


素晴らしい着心地だった。やはり生地には高級品が使われており、肌触りがちがう。それに動きやすい。まさに家政婦のために作られた本格派なメイド服だ。着ているだけで、思わず背筋がのびた。誰でもいいから片っ端からご奉仕したい!という衝動に襲われ、体が震えた。


「・・・・・・かわいいわね」
色摩さんが、少しおもしろくなさそうにつぶやいた。


校長も、目を丸くしながらぼくを見つめている。


ああ!見られている!女装したいけないぼくの姿をひとに見られている!生徒会長と校長先生に見られている!


ぼくは、ハアハアと荒く呼吸をしながら、部屋の中を見回した。


「何探してるの?」
色摩さんが、聞いた。


「鏡は!?鏡はないんですか!?」


「・・・・・・ないけど」


「何でだよっ!?」
ぼくはキレた。


鏡がなければ、ぼくのメイド服姿が見られないではないか!あの色摩さんがかわいいと認め、校長が見とれたこのぼくの姿がどのようなものなのか?どれほどかわいいのか?美しいのか?ああっ!確認したい!早く確認したい!トイレに行くか!?いや、さすがにそれはまずいか。他の生徒に見られる。


・・・・・・それもいいかも。


いやいやいやいや、ダメだダメだダメだ。


落ち着け、ぼく。


たもて理性。




< 30 / 38 >

この作品をシェア

pagetop