濃いラブコメ


五月の終わり頃のことだ。


その日の朝も、おれはゆっくりと慎重に、学校にむかって歩を進めていた。


ゲームセンターを営んでいる自宅から、山のふもとの高校まで、十キロ以上の距離がある。


今年の四月まで、自転車に乗って通学していたのだが、ギャルゲー病になってからは徒歩に変えた。自転車だと、ぶつかってくる女子高生をひいてしまう恐れがあるからだ。


両親は、バス代を出すと言ってくれたが、おれは足腰を鍛えられるからという理由で、歩いて登校することにした。


朝四時に起きて、五時に家を出る。


早朝なら、遅刻しそうな女子高生に会うことはないだろう。


そう思って油断していたら、この前、曲がり角で、ウィダーインゼリーを口にくわえながら新聞配達をしていた女子大生のお姉さんに自転車でひかれた。


どうやら年齢は関係なしに、様々なタイプの女性と、朝、衝突してしまうようだ。


ということは、カロリーメイトをくわえたOLが運転する車に轢かれる可能性もあるわけだ。想像すると、ぞくりとした。


話をもどそう。


五月の終わり頃の朝。


学校まであと二百メートルくらいというところまで来たときだ。


最後の曲がり角の先をゆっくりとのぞく。左右を二度、三度、確認する。


人影はない。


安心して、一歩足を踏み出したときだ。


背後から一人の少女が勢いよくぶつかってきた。
「そんなのありか」
と叫びながら、おれは前につんのめった。


体勢をととのえ、ふりむくと、その少女は道路に尻餅をついていた。



< 4 / 38 >

この作品をシェア

pagetop