楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
「どうしたの?こんなところで」


不思議そうに言った男性は、その優しげな顔に微笑みを浮かべた。


その手には小さな箱を持っていて、それが商店街の入口にあるケーキ屋さんの物だと気付く。


どうやらケーキを買っていた二人を、追い越してしまったらしい。


「大丈夫?随分と息が切れてるみたいだけど……」


心配げに訊いてくれた女性は、やっぱり優しくて…


浅はかな自分の行動が後ろめたいような、とても申し訳ないような、複雑な感情に包まれた。


「大丈夫です。ちょっと、おじいちゃんにお使いを頼まれて……」


見え透いた嘘をどう思ったのだろうか。


それはわからなかったけど、二人は顔を見合わせた後で私にニッコリと笑い掛けた。


「偉いわね」


「まだ人通りはあるけど、気をつけて」


「ありがとうございます。……じゃあ」


顔を隠すように頭を下げ、逃げるように二人の横をすり抜ける。


その直後…


商店街のケーキ屋さんの前に立つサンタクロースの人形が、視界に入って来た。


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