楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
『今日はクリスマスだ』


おじいちゃんの言葉が、一瞬で脳裏に蘇る。


『だから、恋人のいる相手に自分の気持ちをたった一度告げるくらいなら、サンタが大目に見てくれるさ』


そんなの、都合のいい話だよ……


振り向いて見遣った二人は、寄り添いながら歩き出していて。


幸せなクリスマスを過ごすに違いない彼らに、嫌な思いをして欲しくないと思う。


だけど…


「待って……っ、待って下さいっ!!」


それでもずっと隠して来た想いを告げる事を許して貰えるのなら、私はそれに甘んじて一度だけ伝えたい。


「……好きです!」


二人が立ち止まって振り返ったのと、深呼吸をした私が一思いに言葉を紡いだのは、ほとんど同時の事だった。


「「え?」」


驚いた表情の彼らは言葉を失い、目を小さく見開いたまま私を見ている。


程なくして、女性が男性の腕から手を離した。


「私、先に行ってるね」


気を効かせてくれたその言動には、彼女の優しさの全てが詰まっている。


だから…


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