楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
「お二人の事、大好きです!」


“彼ら”に、たった一度だけ口にするこの想いを伝えたい。


「だから、幸せになって下さい」


さっきよりも目を見開いたのは女性の方で、反して男性は微笑みを浮かべた。


「ありがとう」


冬の夜空の下で紡がれた言葉は、キンと冷えた空気を温めてくれたように思える程、とても優しいものだった。


程なくして、男性と同じように微笑んだ女性が白いマフラーを外し、私の首にそっと掛けてくれた。


「そんなに薄着じゃ風邪引いちゃう。今夜はとても冷えるから」


慌てて返そうとした私の手を制し、彼女はそれを巻いてくれた。


鼻先をフワリとくすぐった香りは、女性がいつも纏っているもの。


彼女によく似合う、清潔なフローラルの香り。


「お下がりだけど、いつも美味しいコーヒーを運んでくれるお礼に」


「ありがとうございます……」


戸惑いがちにお礼を告げると笑顔を返してくれた二人に、頭をペコリと下げる。


「さよなら」


それから、賑やかな商店街へと駆け出した。


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