楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
「何だか、コーヒーが飲みたくなって来た。出来れば、楓のおじいちゃんのコーヒーがいいな」


「私も、ちょうど同じ事考えてた」


以前よりも店休日が増えたものの、おじいちゃんはまだ細々とあの喫茶店を営業している。


相変わらず空席の方が目立つし、おじいちゃんの髪もすっかり白くなってしまったけど…


「じゃあ、行こうか。“楓”に」


レトロな【喫茶店 〜楓〜】には、剥げた銅の鐘も振り子時計もレコードから流れる音楽も、そして足繁く通うコアなファンも健在だ。


「うん。クリスマスプレゼントも渡さなくちゃいけないし」


「そうだね」


彼は、色付いた楓とよく似た色のリボンが掛けられた箱を手にし、柔らかい笑顔で頷いた。


「控えようと思ってたんだけどなぁ、コーヒー」


「え?」


不思議そうな顔をした彼に、敢えてわざとらしくため息を零して…


「ほら、お腹の子の為には控えた方がいいって言うじゃない?」


そう言ってから、フワリと微笑んで見せた。


その直後、優しげな瞳が大きく見開かれた。


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