楓 〜ひとつの恋の話〜【短】
おじいちゃんが趣味で営んでいるこの喫茶店は、カフェなんて言葉は似合わないレトロな雰囲気のお店だ。


レコードで音楽を流す店内は昼間でもお客さんが疎(マバ)らで、夕方になればお客さんが訪れる事はほとんど無い。


今日も空席の方が断然多く、数分前に常連のおじさんが帰った今なんて、先程やって来たばかりの男性しかいない。


それでも、おじいちゃんが淹れるコーヒーのコアなファンは足繁く来店してくれ、おじいちゃんはその期待に応えるかのようにこのレトロな喫茶店を細々と営んでいる。


「お待たせ致しました、ブレンドです」


「ありがとう」


テーブルに置いてあるシュガーポットから、砂糖をほんの少しだけ加えて軽く混ぜる。


すっかり見慣れたその光景に、今日も頬が綻んだ。


「今日も寒いね」


「そうですね」


例えば、こんな何気ない会話にだって嬉しくなるのは、この男性に恋心を抱いているから。


だけど…


同時にそれ以上に切なくなるのは、私の気持ちなんて全く知らないこの男性(ヒト)には…。


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